DX企業が新たな人材育成手法「リスキリング」に取り組む理由
DX推進企業に求められる人材育成手法「リスキリング」とは?<前半>
リスキリングとは何か?
企業にとってデジタルトランスフォーメーション(以下:DX)とは、デジタル時代を生き抜くために、ビジネスモデルや組織を根底から変革すること。当然ながら、そのためには人材戦略においても新たな取り組みが求められます。
ひと口に人材戦略と言ってもその領域は多岐に渡りますが、現在、とりわけ多くのDX推進企業で課題となっているのが人材“育成”です。ただし、それは一般にDX人材と呼ばれるような、エキスパート人材の育成に限った話ではありません。DXは本来、全社的な取り組みです。IT・デジタル関連の部署であるか否かを問わず、あらゆるプロセスでIT・デジタル技術を活用した課題解決や価値創造が求められます。つまり、やや極端な言い方をすれば、全従業員のIT・デジタルに関するリテラシーやスキルの底上げが必要なのです。
そうした中、注目を集めているのが「リスキリング(Reskilling/Re-skilling)」と呼ばれる人材育成手法です。リスキリングとは、簡単に言うと職業能力の再教育・再開発のこと。OJT(職業内訓練)のような既存の仕事のための教育ではなく、この先必要とされる新しい仕事、新しい職種のためのスキル獲得を目的とする教育を指します。例えばDX推進企業では、営業職のような非IT・デジタル人材が、ビッグデータ分析などの専門知識の習得を目指す取り組みを指すことが一般的です。
リスキリングの重要性は経済産業省の最近の資料でも取り上げられていますが、海外ではもっと以前から注目されていました。ダボス会議(世界経済フォーラム)は「第4次産業革命により、数年で8000万件の仕事が消失する一方で9700万件の新たな仕事が生まれる」と予測。2018年から3年連続でリスキングに関するセッションを実施しており、2020年1月には「Reskilling Revolution(リスキリング革命)」というデジタルスキルを提供するプラットフォームを立ち上げているほどです。
海外企業のリスキリング事例
企業のリスキリング事例で目立つのもやはり海外。特にDXへの投資が盛んなアメリカ企業です。中でもリスキリングの先駆者として知られているのが、通信大手のAT&Tです。
AT&Tのリスキリング事例
AT&Tがリスキリングに取り組むきっかけとなったのは、スマートフォンの登場をはじめとする通信業界の激変でした。会社としてそうした変化に対応するため、2020年までに事業の柱をそれまでのハードウェアからソフトウェアシステムに転換することに決めたものの、2008年時点で「25万人の従業員のうち、未来の事業に必要なスキルを持つ人は半数に過ぎず、約10万人は10年後には存在しないであろうハードウェア関連の仕事のスキルしか持っていない」ことが明らかになったのです。
そこで2013年から全社を挙げて大規模なリスキリングをスタート。従業員向けに自社でオンライン訓練コースを開発したほか、実務スキルを身に付けるための社内インターンシップ制度の導入、習得スキルに合わせた新たな報酬体系の整備など、リスキリングのモデルともなる仕組みを確立し、2020年までに社員10万人のリスキリングを実施しています。
Amazonのリスキリング事例
Amazonは2019年に「2025年までに従業員10万人をリスキリングする」と発表。約7億ドル(800億円)を投じてリスキリングを実施しています。非技術系人材を技術職に移行させることを目的とした社内研修プログラム「アマゾン・テクニカルアカデミー」では、倉庫作業員もソフト開発エンジニアに必要なスキルの習得が可能。同時に、IT系エンジニアがAI等の高度スキルを獲得するための「マシン・ラーニング・ユニバーシティ」といった取り組みもおこなっています。
Microsoftのリスキリング事例
デジタル時代において、リスキリングは社会的課題のひとつと言っても過言ではありません。
Microsoftは2020年6月、全世界でリスキリングプログラム「グローバル・スキル・イニシアティブ」を無償提供すると発表。コロナ禍の影響による失業者2,500万人の再就職支援として、同社傘下のLinkedIn、GitHubとともに同プラグラムへアクセスするラーニングパスを無償で発行しました。
出典:リスキリングとは—DX時代の人材戦略と世界の新潮流—|経済産業省、リクルートワークス研究所
わずか3社の事例ですが、これだけでもリスキリングの重要性が理解できたのではないでしょうか。次回記事では日本企業の事例を紹介します。