企業の既存システムに待ち受ける「崖」とは何か?デジタルトランスフォーメーションが必要な理由
なぜデジタルトランスフォーメーションが必要なのか?「2025年の崖」について考える<前半>
「2025年の崖」をあらためて考える
昨今、「デジタルトランスフォーメーション(DX)」というキーワードが世間を賑わせています。国外ではデジタル技術を武器に、伝統的な産業の構造や勢力図を一気に塗り替えていくディスラプター(創造的破壊者)が次々と台頭しています。またIoTやAIなどの技術を活用してモノづくりの世界に巻き起こっている第四次産業革命(Industry 4.0)の動きなど、 かつてない時代の大きなうねりを目の前にして、企業自身にも変革が強いられています。
そうした中で経済産業省が2018年9月に公開したのが「DXレポート」です。DXを実行するための課題および解決策を示唆するものですが、特に大きな衝撃を与えたのが「2025年の崖」というフレーズです。「変革に踏み出さない限り、2025年以降に大きな経済損失が生じて崖に落ちる(破局を迎える)」と警鐘を鳴らしたその内容は、多くの企業に危機感をもたらしました。
ではなぜ崖に落ちてしまうのでしょうか。その根拠はレポートに詳しいですが、要点は次の通りです。
1つは老朽化した基幹システムの増加です。次の項で述べますが、レガシー化しブラックボックス化したシステム環境は刷新の困難さはもちろんのこと、戦略的なIT活用の妨げとなります。レポートによれば、現状のあり方が変わらなければ2025年には21年以上経過した基幹システムが6割超にも上るとされています。
そのほかの観点は、変革を担うべきIT人材の不足です。レポートによれば、43万人が不足されていると予想されています。そのほかにも2025年は、現在国内で大きなシェアを誇るSAP ERPがサポート終了となってしまうなど、多数の困難が待ち構えています。
「2025年の崖」を招いた原因とは
経済産業省がここまで強く危機をあおるレポートを発表することは珍しいのですが、裏を返せばそれほどまでに変革は簡単ではないということです。
一概には言えないものの、その原因は日本企業におけるITの利活用に対する考え方も大きく関係しています。例えば、パッケージソフトウェアを導入した際にも、その製品の基本機能に業務を合わせるのではなく、自社の業務プロセスやスタイルにあわせてカスタマイズしたり、アドオンを開発したりしようとする傾向が指摘されています。結果として、スクラッチ開発と変わらないほど基幹システムが肥大化し、かつブラックボックス化している企業が非常に多く見られます。
短期的な目的のために取ったこうしたやり方は、当然のことながら、長期的には何のメリットももたらしません。既存システムを維持することに手いっぱいになってしまうからです。また、複雑に積み重ねられたカスタマイズやアドオンが足かせとなってシステムをバージョンアップするにも多大な検証が必要、最悪の場合バージョンアップできないなど、多くの企業は自ら身を縛るように抜本的な刷新へのハードルをますます高めているのです。
実際、DXレポートには参考資料として「既存システムがDXの足かせとなっている理由」に対する調査結果(一般社団法人日本情報システム・ユーザー協会『デジタル化の進展に対する意識調査』平成29年)が示されていますが、その第1位に挙げられているのが「ドキュメントが整備されていないため調査に時間を要する」という問題です。
継ぎはぎのシステム、かつ拡張を続けたシステムであったとしても、仮にある程度の統制が維持されていれば、抜本的な刷新のハードルやコストはある程度下げられるかもしれません。しかし実際には、「仕様は担当者の頭の中」「ソースコードが仕様書」という状態をもたらしているケースが多いということが、同調査から読み取れます。
こうしたサイロ化や部分最適化が大量発生したシステムで大きな問題となるのはシステムの連携です。DXの根幹には戦略的なデータ活用も関係していますが、サイロ化されたシステムのままでは統合的なデータ収集・活用ができなくなってしまいます。
ここまで2025年に「崖」が待ち受ける背景を指摘しました。次回ではそれに対して企業が持つべき姿勢について見ていきます。