中堅・中小企業もDXとは無関係ではない
シン・中小企業!〜中堅・中小企業で進むDX〜<前半>
「DX=大企業のもの」という誤解
現在、Webや雑誌などで紹介されているデジタルトランスフォーメーション(以下:DX)の事例は、いわゆるグローバル企業や大企業のものが中心です。しかし、だからといって、中堅・中小企業の方が「DXは資金力のある大企業のもの」「ウチは関係ない」と思い込んでしまうのは早計です。
なぜならDXとは、「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズをもとに、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」(『DX推進ガイドライン』経済産業省)。
要は企業が〈競争上の優位性を確立する〉ための〈変革〉の取り組みであって、ビジネス以外のあらゆる〈変革〉と同様、何か決められたやり方や道筋が存在する訳ではないからです。最先端のITツールやテクノロジーも、あくまで数ある手段の一つに過ぎません。企業のサイズに合ったやり方で進めていって何ら問題はないのです。
それに、そもそもすべての大企業がDXにむいている訳ではありませんし、事実上手くいっている訳でもありません。理由はいくつかありますが、とりわけボトルネックとして挙げられることが多いのは、大企業特有の保守性です。
2019年にIPA(独立行政法人 情報処理推進機構)が東証一部上場企業を対象に実施した『デジタル・トランスフォーメーション推進人材の機能と役割のあり方に関する調査』でも、組織の雰囲気の傾向として「変革や挑戦を好む」が当てはまると回答した企業は約4割。実に半数以上の企業がチャレンジに消極的という結果が出ているほどです。
また、メディアでDXの成功事例として紹介されている大企業の事例も、よく見てみると、MAツールによるマーケティング業務効率化や紙書類のデータ化など、DX以前のIT化やデジタライゼーションに分類される取り組みであることが珍しくありません。大企業においても、先程引用したDXの正しい定義がまだまだ浸透していないということでもあるでしょう。こうした状況を考えると、むしろ現在、DXに関して追い風が吹いているのは中途・中小企業のほうかもしれません。
中堅・中小企業ならではの強み
特に最近は、行政による中堅・中小企業DXへの積極的な後押しを目にする機会が増えています。広島県や埼玉県のように地元企業のDX支援に取り組む地方自治体も注目を集めていますが、何より目立つのが経済産業省の取り組みです。
例えば地方の中堅・中小企業向けの取り組みとしては、IoT・AIの利活用の浸透を図るための「地方版IoT推進ラボ」や、企業と高度デジタル人材のマッチングを通じて新たなビジネスモデル創出を図る「ふるさとCo-LEAD」が挙げられます。
また他にも、2022年3月には中堅・中小企業DXの優良事例を選定して紹介する「DXセレクション」をスタートさせ、4月にも中堅・中小企業のDXに求められる取り組みを事例とともに解説した「中堅・中小企業等向け『デジタルガバナンス・コード』実践の手引き」という資料を公表しています。
こうした経済産業省の動きと呼応するように、2021年8月2日から、DXにかかわる設備投資について税額控除または特別償却が受けられる「DX投資促進税制」の施行が始まっています。適用を受けるためには情報促進法に基づく認定を受ける必要があり、第1弾として認定を受けたのは大企業ばかりだそうですが、今後は中堅・中小企業にも広がっていくことが予想されています。
さらに、これらの外部環境以外にも、中堅・中小企業には“中堅・中小企業ならでは”の強みがあります。それは、スピード感を持って様々な取り組みに着手しやすいこと。DXを推進していくためには明確なビジョン策定や強いリーダーシップが欠かせませんが、中堅・中小企業は大企業に比べて中間管理職が少なく、経営者の考えや意思決定が伝わりやすいという傾向があります。チームワークが良く従業員エンゲージメントも高い企業であれば、大企業では難しい社員一丸となった部門横断的な取り組みにも有利と言えるでしょう。
実際に、既に多くの中堅・中小企業がDXによって変革を起こし、業績を伸ばしています。次回の記事でその事例を紹介します。