物流企業の明暗を分ける「DX格差」
改革が求められる物流業界で、DX推進がもたらす可能性<前半>
ついに「改革待ったなし」の状況が訪れた
ネット通販市場の急拡大、人材の高齢化及び人手不足、さらにドローンや自動運転など最新テクノロジーの登場を背景に、長らく改革の必要性が叫ばれてきた物流業界。その流れにダメ押しとして登場したのが、今回の新型コロナウイルスの世界的感染拡大ではないでしょうか。
医療やスーパー、公共交通機関などともに、エッセンシャルワーカーとして注目を集め、その社会的存在意義の高さが改めて見直された一方で、公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会の緊急アンケートでは、約65%の物流企業が業績に対するマイナスの影響を懸念しています。
とはいえ、一旦感染が沈静した中国で第2派の襲来が報じられるなど、先行きの見えない状況は変わりません。業績以外でも、サプライチェーンの混乱や、倉庫作業員やドライバーの労働集約的で属人的なワークスタイルなど、様々な課題が浮き彫りになっています。ウィズ・コロナであろうがアフター・コロナであろうが変わらぬ働きを求められる業界にあって、人手不足や物流コストの上昇も含めて、現状を変えていかなければならないと考えている方は多いはずです。
「ついに、改革待ったなしの状況が訪れた」。これこそが、企業規模を問わず、現在の物流業界、あるいは企業の物流部門における共通認識ではないでしょうか。そして、そのような中で注目を集めているのが、テクノロジーでビジネスや働き方を抜本的に改革するための取り組み、すなわちDX(デジタルトランスフォーメーション)なのです。
DX先進企業とDX後進企業
DXという言葉自体は、2018年に経済産業省よりその重要性と必要性を訴えるレポートが発表されたこともあり、もはや新しいものではありません。事実、先進的な企業では、すでに様々な取り組みが始まっています。
例えば、某大手物流企業では、構内作業者の人手不足に対する解決策として、オートレーターと自動フォークリフトを連携させ、夜間と早朝に行っていた翌日の出荷準備作業を完全自動化しています。リアルタイムでトラックの位置を確認できるGPSや、トラック待機問題解消のためにトラック予約システムを導入する物流センターは今後も増えていくでしょう。いくつかの企業では、第5世代移動通信システム(5G)を活用した「スマート物流」実現に向けて動いているというニュースも目にします。
しかし一方で、いまだに前時代的な仕組み、いわゆる「アナログ文化」から一歩も進化しようとしない企業が存在するのも事実です。ピッキング作業は紙の指示書を目視でチェック、各種伝票はファックスで送付し、在庫管理はエクセルでポチポチ……。さすがにその段階はクリアしていても、まだまだ多くの現場では、ハンディターミナルとWMS(在庫管理システム)の導入あたりで止まっているのが実情ではないでしょうか。
『DXサーベイ』(日経BP総合研究所イノベーションICTラボ:2019)によると、流通・物流・運輸業でDXを推進している企業はわずか約30%。つまり物流業界には、少数のDX先進企業と残り大部分のDX後進企業との、「DX格差」とでも言うべき格差が歴然と存在しているのです。
あらゆる企業に改革が求められる現在、この状況は看過できるものではありません。とはいえ、すべての企業が最初から全面的にDXを推進できるわけではないでしょう。そこで次回は、DX後進企業が今取り組むべき「DXはじめの一歩」となる施策を紹介します。