コミュニティや生成AI活用も!多様化する「社外問い合わせ対応」効率化ツール
企業の共通課題、「問い合わせ対応効率化」に役立つIT・デジタルツールとは?<後半>
前半記事では社内問い合わせ対応に適したツールを紹介しましたが、今回は主に社外からの問い合わせ対応業務効率化に活用されているIT・デジタルツールを紹介します。
IVR
IVRは「Interactive Voice Response」の略称。日本語では「自動音声応答システム」と呼ばれ、電話での問い合わせに機械による音声で自動応答するシステムを指します。
ただし、自動応答といっても、事前に用意したメッセージを流す仕組みのため、臨機応変な対話や判断はできません。一般的に、「〇〇に関するお問い合わせは1を、△△に関するお問い合わせは2を押してください」というガイダンスを流して適切な窓口へ振り分けたり、件数の多い簡単な質問に回答したり、といった活用法が一般的です。
企業にとっては、一時対応を省人化することでオペレーターの業務負担を軽減できることが大きなメリットです。ユーザー側にも、電話が繋がらなかったり、たらい回しにされたりするストレスがなくなるという利点があります。
ビジュアルIVR
ビジュアルIVRは、Webサイトやアプリの画面上で「視覚的に」問い合わせに対応するシステムです。IVRよりもオペレーターに繋がるまでの手間、例えば音声ガイダンスを逐一最後まで聞いたり、聞き逃して再度確認したりする必要のない点がユーザーメリットとして挙げられます。
よくあるビジュアルIVRへの導線は、電話で問い合わせのあったユーザー宛に専用サイトのURLをSMS(ショートメール) で送付して誘導するというもの。企業や製品・サービスのWebサイトやアプリにアクセスボタンを設置するケースもあります。専用サイトにはユーザーの自己解決をサポートするコンテンツの他、オペレーターと直接やり取りできる電話やチャット、LINEなどの問い合わせチャネルへアクセスできるボタンを掲載するのが一般的です。
SMSを活用したビジュアルIVRへの誘導の流れ(画面はイメージ)
最近ではUX(ユーザー体験)向上のための取り組みも進化しており、AI(人工知能)を活用し、事前に企業やサービスのWebサイトを訪問したユーザーに対して、閲覧履歴に基づいて最適なFAQを自動表示できるサービスも登場しています。
コミュニティツール
コミュニティツールは、製品・サービスのユーザーが情報交換やノウハウ共有、交流などをおこなうコミュニティサイトを構築・運用するためのツールです。企業がコミュニティサイトを開設するメリットは顧客・ユーザーのファン化=ファン作りを促進できることですが、掲示板や専用コーナーを設けてユーザー同士での問題解決を促進し、カスタマーサポートの負担を減らすことも可能です。
例:株式会社クレオ『クレオユーザー』ポータルサイト
例えば、様々な業務管理システムを提供している株式会社クレオでは、ユーザー向けのポータルサイトを運営しています。ユーザーの業務に沿ったセミナーや分科会情報や、トレンド情報をコラムやブログ記事として公開しています。また、ユーザーどうしのコミュニティの場を提供するユーザー会の運営も行っているようです。
チャットボット、AIチャットボット
チャットボットは文字(テキスト)で問い合わせに自動応答できるシステムです。
チャットボット(イメージ)
チャットボットにはいくつか種類がありますが、一般的なのは上図のように選択形式の質問を提示し、ユーザーに回答してもらいながら問題解決(またはオペレーターへの問い合わせ)へと導くタイプ。よくある問い合わせに無人で対応できるのがメリットです。ただし、事前の質問作成や「ユーザーがAを選んだらBのメッセージを返す」といった条件分岐を含むシナリオ設計に手間が掛かる、設定した質問以外は対応できない、などのデメリットがあります。
そうした弱点をカバーできるのがAI(人工知能)を活用したAIチャットボットです。ユーザーとのやり取りやFAQデータを学習することで、少し複雑な質問にも回答が可能。シナリオ設計が不要のサービスも登場しています。自然言語処理技術により、柔軟性の高い対話をおこなえるのも大きなメリットです。
ユニークな活用事例として知られているのが、ヤマト運輸株式会社LINE公式アカウントの問い合わせ用チャットボット。猫語で話しかけると猫語で答えてくれるサービスを提供しており、例えばユーザーが「荷物の状況を知りたいにゃー」とメッセージを送ると、「送り状番号を入力してくださいにゃー」と返してくれます。とかく無味乾燥なやり取りに終始しがちな問い合わせ対応において、ファン作りにもつながり得るチャーミングな取り組みと言えます。
チャットボットとAIチャットボットについては↓の記事でより詳しく解説しています。
AI、生成AIの活用も――進化を続けるチャットボットの基礎知識(SmartStage)
AI自動音声応答システム
AI自動音声応答は、AIがオペレーターの代わりに電話応対するシステムです。一般に音声認識や音声合成、自然言語処理、会話制御などのAI技術を活用しており、事前に設定したシナリオをベースに、ユーザーの質問内容を解析して自動で回答したり、オペレーターへ転送したりすることができます。
先ほども紹介したヤマト運輸株式会社では集荷依頼の電話受付に導入。AIでの対応が難しい場合は有人窓口につながる仕組みを構築しましたが、当初の想定以上にAIオペレーターのみで対応を完了できているということです。
参考:ヤマト運輸×LINE「お客さまのため」がDXの出発点 AIで“繋がるコールセンター”|『DX SQUARE』独立行政法人情報処理推進機構(IPA)
単体での導入でも効果的ですが、他のITツールとの連携により相乗効果を生み出すこともできます。例えば、パソコンを使った定型作業を自動化できるRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)と連携すれば、応対後のシステムへの入力作業など、事務処理も含めて自動化できるようになります。
生成AIを活用した問い合わせ対応効率化ツール
近年、ビジネス・ITの分野で最も注目を集めている技術と言えば生成AIですが、問い合わせ対応ツールへの活用も進んでいます。その一つが、生成AIの文章生成技術を活用したAIチャットボット。事前に製品マニュアルや仕様書などのドキュメントを登録しておくと、問い合わせ内容に応じて自動でドキュメント内容に基づいた回答を返すことができるサービスが登場しています。
その他、前半記事でも紹介したFAQシステムにも生成AIが活用されています。FAQシステムはFAQサイトを構築するためのITツール。生成AIと連携することにより、過去のメールやチャットでの問い合わせ内容に基づいて自動でFAQのタイトルや本文を作成することが可能です。
問い合わせ対応ツール選びの注意点
問い合わせ対応の効率化は企業にとって解決すべき重要課題。しかし、ただ入電件数や対応件数の削減だけを目的にツールを導入するのはおすすめできません。顧客の“生の声”を知ることは顧客中心のビジネス変革=DXを成功させるために欠かせない取り組みですし、顧客接点があまりにも少ないと顧客ロイヤリティ(=企業に対する信頼・愛着)の向上も期待できないからです。
また、企業にとって最適なツールがユーザーにとっても最適であるとは限らないことにも留意しておくべきです。「チャットボットのようなテキストベースのやり取りのほうが気軽で便利」という人もいれば「使い慣れている電話の方が良い」という人もいますし、その割合は製品・サービスや問い合わせ内容によって異なるからです。
ありきたりではありますが、ツールを選ぶ際に忘れてはいけないのはやはり顧客視点。「どうすれば迅速かつスムーズに対応できるか」はもちろんのこと、「どうすればより良い顧客体験を提供できるか」という視点も忘れないことが大切です。