国民の混乱を招いた自治体のDX遅れ
企業IT担当者も見逃せない、自治体におけるDXの現在と未来<前半>
「これは不条理コントなのか?」
リーマン・ショック級、あるいはそれ以上の経済的損失をもたらすと予想される今回のコロナ禍は、同時に、旧態依然とした企業・業界に巣食う根深い問題を容赦なく白日の下にさらしました。それは、一般にビジネスとは縁遠いイメージのある地方自治体も例外ではありません。
とりわけ注目を集めたのが、特別定額給付金支払い業務における非効率性でしょう。給付対象は全国民、にもかかわらず作業は驚くほどアナログ。多くの自治体で、郵送で届いた申請書を職員が一枚ずつパソコンに手入力、オンラインの申請書も住民基本台帳との照合のために出力し、これまた職員が一枚一枚目視でチェックしなければならなかったそうです。
その結果、ミスや手戻りが多発し、大量の遅れや二重給付が発生したのは誰もがご存じの通り。窓口には連日多くの問い合わせが寄せられ、作業どころではなかった自治体もあったとか。挙句の果てには、自粛要請中にもかかわらず、自宅で可能なオンライン申請ではなく、外出が必要な郵送申請を勧めるという、「これは不条理コントなのか?」と突っ込みたくなるような事態にまで発展してしまいました。
もちろん原因は多岐に渡っており、すべてを現場の業務プロセスに帰するのは間違いでしょう。けれども、デジタルトランスフォーメーション(以下:DX)に詳しい方なら、一連のニュースを見て次のように思われたのではないでしょうか。「多くの自治体が早くからDXを検討していれば、あるいは少なくともRPAやAI-OCRを活用していれば、このような事態は防ぐことができたのに」と。
コロナ禍以前から進む国主導のDX推進
ご存じない方のために説明しておくと、RPAとAI-OCRは、ともにDXにおいてベースとなるITツールです。RPAは「ロボティック・プロセス・オートメーション」の略称で、情報収集や資料作成を始めとするパソコンでの定型作業を、ソフトウェア型ロボットが自動化してくれます。
もう一つのAI-OCR(オプティカル・キャラクター・リーダー)は、AI(人工知能)を活用した光学的文字認識ソフトウェアのこと。手書き文字も読み取ってデータ化できるので、紙書類やFAXの内容を人の手でパソコンに入力する必要がなくなります。
例えば今回の給付金支払い業務の場合、AI-OCRを使えば、郵送による申請書の入力作業も省略できますし、RPAと会計システムを連携させて、口座振込用データの作成から会計処理までを完全に自動化させることも可能です。さらに、RPAにはデータチェック機能も実装できるので、人の目で照合するためにオンラインの申請書をわざわざ出力する必要もありません。
実際に、今回の給付金支払い業務にRPAとAI-OCRを導入した鹿児島県奄美市では、手作業に比べて処理スピードが約10倍アップ(1件あたりの処理時間が約5分から30秒程度に短縮)したという事例が報告されています。
以上のように、業務プロセスを劇的に効率化してくれるRPAとAI-OCRですが、実はDX自体は、コロナ禍以前から国が様々な形で推進を訴えていた施策であり、本来であれば、給付金支給が決定した時点で、もっと多くの自治体がRPAやAI-OCRを活用していても不思議ではありませんでした。
事実、早くからDXに取り組み、給付金支給業務以外でも目覚ましい成果を上げている自治体はいくつも存在します。次回はその成功事例から紹介いたします。