変えるために、変わる。——DX推進組織を作るために必要なこと
DXに取り組む前に知っておきたい「DX組織論」<後半>
PDCAに代わるフレームワーク
前回の記事で、DXのためのシステム/アプリ開発において最優先すべきはユーザー視点であり、それを実現するためには「柔軟性」と「スピード感」を備えた「自律分散型組織」が必要であると述べました。
その自律分散型組織と対極的な組織が、いわゆるトップダウン型、ピラミッド型の中央集権型組織です。中央集権型組織のデメリットは、よく言われる柔軟性とスピード感の欠如だけではありません。メンバーが上位者との関係性や組織内のポジショニングを優先して、ユーザー視点がおろそかになりやすいという弊害もしばしば指摘されています。にもかかわらず、すでにDXに取り組んでいる企業でも、中央集権的な組織作りから脱却できす苦労している企業が少なくありません。
では、どのようにして自律分散型の組織を作るか? 組織の仕組みやカルチャーを変革する手法としてはチームビルディングのワークショップなどが知られていますが、新しいフレームワークを導入して、メンバーの思考や行動様式の変革を試みるのも一策です。
例えば、これまでビジネスで定番だったPDCAサイクルに代わって、シリコンバレーの企業を始め、日本でもDXを強力に推進している企業を中心に採用されているのが「OODA(ウーダ)ループ」と呼ばれるフレームワークです。
OODAループとは「Observe(観察)」「Orient(情勢判断)」「Decide(意思決定)」「Act(行動)」の頭文字に、「Feed forward / Feedback Loop(ループ)」を加えたもの。簡単に言えば、最初にPlan(計画)ありきのPDCAとは違い、現場が実際の状況(データや顧客の反応)に応じて柔軟かつスピーディー判断し、意思決定し、行動するための、徹底して現場主体=ボトムアップ型のアプローチです。
もう一つ重要なポイントが、ベースにある「失敗歓迎」「失敗なくして成功なし」という考え方です。ミスや想定外の出来事は織り込み済み。落ち込んだり時間をかけて検証したり上長への言い訳を考えたりする時間があったら、素早くフィードバックし、再び観察から始めれば良い。何よりこうしたアプローチこそ、前回も紹介したアジャイル開発と相性が良いことは言うまでもありませんし、もしかすると、OODAループを導入できるかどうかが、その組織が自律分散型であるかどうかを判断する分水嶺になると言って良いかもしれません。
欠かせない他部門の協力と連携
念の為に付け加えておきますが、DXの組織づくりにおいて「柔軟性」「スピード感」「自律分散型」を重視する考え方は決して特殊なものではありません。
経済産業省の『デジタルガバナンス・コード』(2020年11月発表)という資料でも、組織づくり・人材・企業文化に関する望ましい方向性として、「IT/デジタル戦略推進のために各人(経営層から現場まで)が主体的に動けるような役割と権限が規定されている」「組織カルチャーの変革への取組み(雇用の流動性、人材の多様性、意思決定の民主化、失敗を許容する文化など)が行われている」といったことがポイントとして挙げられています。
また、ここまでは主に直接開発に関わる組織について触れてきましたが、実際にDXを成功させるためには、現場や事業部門の協力・連携も不可欠です。例えばWebサイトやIoTなどで収集したデータを使ってデータドリブン戦略を実施するにしても、チームにユーザーをよく知る(ユーザーとの接点を持つ)メンバーがいなければ、データ分析も仮説構築も表面的なものになり、ユーザー価値の向上・創出につなげることは難しくなります。
要はDX推進組織にはテクノロジー視点とビジネス視点の双方が求められるということですが、企業によって既存の部署とは別に(または新会社を設立して)組織横断型組織を設けるケースと、あくまでIT部門など既存のデジタル専門部署を中心としつつ、全社を巻き込んでいくケースに分かれます。
行動経済学には「現状維持バイアス」という概念があり、人は変化を損失と捉えやすい傾向があるとされています。新しいフレームワークを導入するにせよ、組織横断型組織を設立するにせよ、少なからず反発や軋轢が起ることは避けられないでしょう。しかし、そもそも製品やサービス、ビジネスモデルだけでなく、「組織、プロセス、企業文化・風土を変革」(経済産業省:『DX推進指標とそのガイダンス』)することもDXの目的であることを考えれば、そうした事態に対応することからDXは始まっているとも言えます。
変える(=トランスフォーム)ために変わらないといけない——それがDXの本質かもしれません。