“ビッグ”なだけでは無価値。ビジネスにおけるデータ活用のポイント
DX戦略の要!データ活用の基礎知識<後半>
データ収集の前に取り組むべきこと
数年前に「ビッグデータ」という言葉がバズワード化したこともあり、データというと「とにかく多くの量を集めなければならない」と考えている方が多いかもしれません。しかし、それは大きな勘違いです。
もちろん、意思決定する上で最低限必要なサンプルサイズ(n)は存在しますし、データの活用領域によっては全数調査が最適なケースもあります。ただ一般的には、データの価値は量ではなく質、そこから抽出できる情報で決まるというのが定説です。つまり、いくら“ビッグ”でも、有益なアクションにつながらなければそのデータには価値がないということです。
では、どうすれば「アクションにつながる=価値の高い」データを収集することができるのでしょうか? まず取り組むべきは、データを活用する目的や解決すべき課題(分析課題)を全社レベルで定義することです。2020年6月に経済産業省が公表した『データ利活用のてびき』という資料にも、「経営上の課題から『目的の明確化』」することが、経営者によるデータ活用のための環境づくりの第一歩として明記されています。
事前に目的や課題を明確化することで、例えば顧客満足度の低下が課題だった場合、「顧客満足度が増減する要因を特定できるデータが必要」といったように、取得すべきデータの見極めや優先順位の設定が容易になります。必要なデータを自社で取得することが困難な場合は、外部(他社)からの提供を検討することも可能ですし、仮に入手できないデータがあっても、目的が明確であれば近似値や仮定による設定を与えて分析することができます。
反対に、目的を設定せずに収集したデータから活用方法を考えるというアプローチでは、有効な施策はおろか、最悪の場合、単なる現状把握に終わってしまうケースもありえます。
データ分析における注意点
本来、こうしたデータ収集や分析作業は、統計学などの専門知識を持つ「データサインティスト」と呼ばれるエキスパートに任せるのがベストですが、いわゆるAI人材と同様に人材不足の状況が続いており、多くの企業では現場の業務担当者がおこなっているのが実情です。
そのような専門職以外の担当者がデータ分析をおこなう場合、注意すべきは「相関関係と因果関係を混同しない」ということです。
例えば、あるECサイトでキャンペーンに向けてWeb広告の効果測定テストをおこない、マーケティング担当者が「1週間Web広告を出稿したところ売上が20%向上した」と報告してきたとします。しかし、これだけの情報から「1週間Web広告を出稿すれば売上が20%向上する」という因果関係を導き出し、広告予算を組むのは性急に過ぎます。
なぜなら、多くのWeb広告はターゲット属性(地域や年齢層、自社サイト訪問の有無など)を設定できるにもかかわらず、この情報だけではどのようなユーザーに広告を掲出したのか明らかではないからです。仮に商品認知の高いユーザーだけに広告を掲出していたり、キャンペーン本番で属性の幅を広げたりした場合、20%という数値が大幅に減少する可能性もあります。
もちろん、実際に例のようなケースで混同する方は少ないと思いますが、よりもっともらしい相関関係、例えば「従業員満足度を上げれば売上が上がる」、あるいは「健康検診を受けている人ほど長生きする」といったようなものであれば、意外に人は因果関係を認めてしまいやすいのではないでしょうか。
しかし、少し考えてみればわかるように、前者は原因(従業員満足度の向上)と結果(売上向上)を取り違えている可能性がありますし、後者は先の例と同様に調査対象者を確認しない限り真相はわかりません。ビジネスでデータを活用するということは、客観的な事実に基づいて意思決定をおこなうということ。分析の際は、思い込みを排してデータの背景を考えることが必要です。
今回は触れられませんでしたが、データを効果的に活用するためには、サイロ化したデータの統合、名寄せ(表記統一)、クレンジング(更新・削除)、セキュリティなどの「データマネジメント」と呼ばれる地道な取り組みや、顧客ニーズやビジネス環境の激しい変化に対応するために、現場が迅速かつ自律的なアクションを起こすことのできる組織・カルチャーづくりも重要です。前回の冒頭でも述べたように、デジタル時代のビジネスにおいて、データは企業の競争力の源泉であり経営資源。攻め・守りの両面で、いかにデータを有効活用できるかが、DXの正否を分けると言っても過言ではありません。