他社はどのようにAIを活用しているのか?
知らないとマズイ!? ビジネスにおけるAIの現在<後半>
ビジネスでのAI活用例
2022年現在、右肩上がりの成長を続けているAI市場。では実際のビジネスの現場ではどのように活用されているのでしょうか。いくつか紹介しましょう。
■需要予測
AIに過去の需要(売上)データと天候や人流など需要に影響を及ぼす因子のデータの関係性を学習させることで、将来の売上を予測させることが可能です。
需要予測は業界問わず企業活動の根幹にかかわる重要な業務ですが、特に小売りや卸、製造業などを中心に発注業務の効率化や在庫最適化を目的としてAIが活用されています。
参考:AI導入ガイドブック 需要予測(小売り、卸業)|経済産業省
■見積もりの自動化
属人性の高い見積もり作成業務も、過去実績などのデータを学習したAIによって自動化・最適化を図ることができます。現在は特定の業界を対象とした製品化も進んでおり、ITエンジニア向けにAIが開発工数から提示してくれるSaaSシステムや、製造業向けに3D CADのデータから即時に見積を作成してくれるツールなども登場しています。
■予知保全
予知保全とは、製造業において設備や機械の異常を検知し、故障・障害の発生を未然に防ぐ取り組みを指します。従来は人が勘や経験にもとづいて行うことも一般的でしたが、音や振動、温度、電流など、故障と関連性の高いデータを解析できるAIモデルを構築することで、人と同等以上の精度が期待できます。
参考:AI導入ガイドブック 製造業へのAI予知保全の導入|経済産業省
■紙文書・手書き文字のテキストデータ化
経理部門などのバックオフィスで活用されているのが、AI-OCRと呼ばれるAIを活用した光学文字認識技術です。通常のスキャンと違い、紙や手書き文書を自動でテキストデータ化できるので、封書やFAXで届いた帳票をわざわざ手入力する必要はありません。
手書き文字の識字率もディープラーニングによって精度向上が可能。さらにRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)というITツールと連携させることで、紙帳票からのデータ抽出、データ入力、集計・加工、出力といった一連の事務業務を自動化することができます。
■オンライン商談の成約率向上
コロナ禍以降、一気に普及したオンライン商談ですが、「対面よりも相手の反応や手応えがわかりづらくて難しい」といった声をよく耳にします。そうした課題を解決するために、AIが相手の表情や音声データから感情を分析して成約率向上をサポートするITツールが登場しています。
現状は相手に商談中の録画許可を求める必要があるなど、いくつか課題もあるようですが、他に商談内容を自動で要約して書き起こししてくれるツールなども登場しており、今後もオンライン商談でのAI活用は増えていくことが予想されます。
■デザイン・設計案の自動生成
これまで人のセンスや発想に頼るしかなかったデザイン・設計の領域でもAIの導入は進んでいます。中でもプロダクトデザインにおいて注目を集めているのが、AIが与えられた要件をもとに複数のデザイン案を生成する〈ジェネレーティブデザイン〉という設計手法。基本的に3Dプリンタの使用を前提としており、自動車部品から建築物まで、既に様々な分野で活用されています。
AI導入に失敗する要因
以上のように既にAIはビジネスの様々なシーンで活用されていますが、上手く取り入れて事業成長を実現している企業が存在する一方で、PoC(実証実験)の段階でつまずいてしまい先に進めない企業が多いのも事実です。そしてその主要な要因として、スキルや人員不足とともにしばしば挙げられているのは“組織”の問題です。
中でも意外とありがちなのが、経営者が現場やIT部門に丸投げしてしまうこと。しかし、特にDXに取り組もうとしている企業、特定業務の効率化だけではなく、AIを通じてビジネスモデルや組織の変革を目指している企業であれば、経営層と従業員が一丸となってAIに対する理解を深めながらプロジェクトを進めていくことが不可欠です。AIの開発・導入をITベンダーや外部の専門家に委託する場合でも、自社ビジネスの知見とAIに関する必要最低限のリテラシーを兼ね備えた業務担当者の関与は必須とされています。
また、活用領域にもよりますが、基本的にはAIを導入しただけで即何かが劇的に変わったり成果が上がったりする訳ではありません。経済産業省の資料にも明記されているように、AIモデルの構築・検証を重ねながら、継続的かつ段階的に育てていく心構えが欠かせません。一度実装しても、再学習や認識・解析の精度モニタリングなどの保守的な作業が求められます。先日、ヤフー株式会社が2023年度までに全社員がAIを業務で活用できるよう再教育を行うことを発表しましたが、そこまでのレベルを実現することは難しくても、経営層が将来達成したい目標やビジョンに基づいてAIによる変革の必要性を説き、それを社員一人ひとりに自分事化してもらえなければ、そうした取り組みを続けるのは困難でしょう。
以前から日本企業は、海外企業に比べてデータの利活用が遅れていると指摘されてきました。2020年11月にガートナー社が発表した調査結果でも、約60%超の企業がデータの利活用に対して課題意識を持っていると回答しています。しかし、見方を変えればこの状況は、他社に先んじてデータを利活用することによって業界で一歩抜きん出るチャンスとも言えるのではないでしょうか。もちろんそのためには、今回取り上げたAIの活用がカギとなることは言うまでもありません。