デジタルトランスフォーメーションをもっと身近に

迫り来る「2040年問題」は自治体と企業のDXコラボで迎え撃つ

企業IT担当者も見逃せない、自治体におけるDXの現在と未来<後半>

迫り来る「2040年問題」は自治体と企業のDXコラボで迎え撃つ

企業を追い抜くか。自治体のDX推進事例

コロナ禍において、自治体の特別定額給付金支払い業務を劇的に効率化させ、改めてその必要性・重要性に注目が集まっているデジタルトランスフォーメーション(以下:DX)。とはいえ、前回もお伝えしたように、DX自体は以前から国が推進を図ってきた施策であり、先進的な自治体ではすでに様々な取り組みが進められています。

例えば熊本県宇城市では、平成29年にふるさと納税に関するパソコン作業をRPAで自動化し、年間作業時間を約22,654時間(11.6人)も削減できるとの推計を発表して大きな反響を呼びました。その後はさらに領域を広げ、会計など6つの業務にRPAを導入しています。

奈良市役所では平成30年5月から2ヶ月間、異なるソフト・システム間の事務作業をRPAで自動化する実証実験を実施。結果は良好で、市長自ら「約80%の時間短縮を実現した業務もあった」「単純業務から職員を解放し、住民サービスの質を上げられる」と評価しています。

もちろんRPAだけではありません。東京都港区ではAI(人工知能)を活用した議事録自動作成ツールを導入していますし、全庁横断のDX専門組織「デジタルトランスフォーメーション推進本部」を設置した広島県、そして地方自治体として初めてCDO(最高デジタル責任者)を設置した福島県磐梯町のように、AIやIoT、ブロックチェーン、5Gなどの最新技術を複合的に活用した「スマート自治体」実現に向けた取り組みを始めている自治体も存在します。

さすがに民間企業に比べると少数ですが、今回の給付金支払い業務における混乱を機に、今後は自治体のDX事例は確実に増えていくはずです。企業もうかうかしていると、近いうちに「自治体は民間企業に比べて遅れている」というイメージは完全に過去のものになってしまうかもしれません。

DX推進レベルが住民サービスの指標になる

「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」――経済産業省は『DX推進ガイドライン』(2018年)において、DXの目的をこのように述べています。

ここで対象となっているのは民間企業ですが、「環境の激しい変化に対応」するために「変革」が必要なのは自治体も同様でしょう。「2040年問題」とも呼ばれている、日本の高齢者(65歳以上)人口がピークを迎える2040年頃には、現在の約半数以上の市区町村が消滅すると予想されています。

何より自治体におけるDX推進は、組織内の変革にとどまらず、住民にとって欠かせない医療・福祉・教育などのインフラの利便性を向上させる役割も果たします。言い換えるなら、自治体におけるDX推進レベルは住民サービスのレベル、つまり、「その自治体がどれくらい住民のことを考えているか」を測る指標と言っても過言ではないのです。

とはいえ、すべての自治体で今すぐ全面的にDXを開始することは不可能でしょう。予算の確保はもちろんのこと、ベースとなる業務プロセス及び情報システムの標準化、高いデジタルリテラシーを持つ人材の育成、実現すべきグランドデザインの策定など、越えるべき壁を数多く存在します。状況によっては、まずはペーパーレス化やオンライン業務の範囲拡大、あるいはベースとなるRPAやAI-OCRのみを導入するなど、スモールスタートも有効です。

加えて、今後は民間企業とのナッレジやノウハウの共有も重要になってゆくはずです。繰り返しになりますが、変革のためにDXが重要であることは自治体も企業も変わりません。そして、先に挙げた「2040年問題」は「内政上の危機」とも呼ばれ、国と地方自治体だけはなく、国民共通の問題でもあります。官民が切磋琢磨しながらDXを推進し、迫り来る「2040年問題」を迎え撃つ――いささか大仰な表現かもしれませんが、戦略としては決して的外れではないのではないでしょうか。

参考:「自治体、2040年に半数消滅の恐れ 人口減で存続厳しく」(日経新聞)

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