製造業DXで要注目の「スマートファクトリー」とは?
製造業DX ~モノづくりの常識を変える「スマートファクトリー」~<前半>
ダイナミック・ケイバビリティの重要性
多くの企業が競争の激化、消費者ニーズの多様化、人手不足、技術継承といった恒常的な課題を抱える製造業。加えて近年は、コロナ禍によるサプライチェーンの混乱、世界情勢の悪化による原材料の高騰、部素材不足などの異例の事態が立て続けに起こり、業界を取り巻く環境はますます不確実性が高まっています。
こうした状況において企業の競争力の源泉となると言われているもの、それが「ダイナミック・ケイバビリティ」です。日本語では一般に“企業変革力”と呼ばれ、企業が環境変化に対応するために既存の資産や組織内外の資源を再利用・再構成する能力を指します。
日本では経済産業省の『ものづくり白書2020』で取り上げられたことで知られるようになった概念ですが、そこでは元々の提唱者である米カリフォルニア大学バークレー校経営大学院デイヴィッド・J・ティース教授が挙げている、ダイナミック・ケイバビリティを構成する3つの能力が記されています。
・感知(Sensing)
脅威や危機を感知する能力
・補足(Seizing)
機会を捉え、既存の資産・知識・技術を再構成して競争力を獲得する能力
・変容(Transforming)
競争力を持続的なものにするために、組織全体を刷新し、変容する能力
勘の良い方なら既にお気づきの通り、これらの能力を強化・実現するために欠かせないのがIT・デジタル技術であり、それらの技術を効果的に活用してビジネスと組織を変革するDXです。そして、その製造業のDXにおいて現在とりわけ注目を集めているのが、今回のテーマである「スマートファクトリー」なのです。
先端技術によるデータ活用が要(かなめ)
スマートファクトリーとは、IoTやビッグデータ、AI、ロボットなど様々なIT・デジタル技術を活用し、製品・工程設計を含むエンジニアリングチェーンから、原材料調達・生産・販売を含むサプライチェーンまでをネットワーク化・最適化・自動化する、先進的な工場を指します。工場でありながら、“モノづくり”だけでなく、ビジネスプロセス全体を視野に入れている点が大きな特徴と言えるでしょう。
スマートファクトリーについては、経済産業省が2017年5月に『スマートファクトリーロードマップ』という資料を発表するなど、国が積極的に啓発・推進していることでも知られていますが、同資料にはそれぞれのプロセスにおける目指すべき取り組みとして、次のようなものが挙げられています。
〈設計〉…ニーズに即した製品設計、短期間による製品設計
〈生産〉…個別のニーズや需要変動に対して高い柔軟性・即応性を有した生産、高い生産性・品質を有した生産、低コストの生産
〈サービス〉…製品に付随したサービス提供による新たな付加価値の創出
言うまでもなく、こうした取り組みの要(かなめ)となるのが、生産技術や製品に関する「データ活用」です。例えば『スマートファクトリーロードマップ』では、スマートファクトリーにおけるデータ活用のレベルを下記のように3つのレベルに分類しています。
レベル1:データの収集・蓄積
有益な情報を⾒極めて収集して状態を⾒える化し、得られた気付きを知⾒・ノウハウとして蓄積できる
例)設備・製品のモニタリング、従業員の作業状況や部品位置のセンシング、過去の設計事例及び生産実績のデータベース化など
レベル2:データによる分析・予測
膨⼤な情報を分析・学習し、⽬的に寄与する。因⼦の抽出や、事象のモデル化・将来予測ができる
例)製品の需要予測、製品・設備の予防保全、各製造工程の完了予定時間の予測、関係部門間及びサプライチェーン上における企業間での調達・生産・物流計画の共有など
レベル3:データによる制御・最適化
蓄積した知⾒・ノウハウや、構築したモデルによる将来予測を基に最適な判断・実⾏ができる
例)製品設計自動化、生産・出荷計画の最適化及び作成自動化、故障発生時の早期復旧及び稼働停止時間の削減、多品種製品のフレキシブルな生産など
繰り返しになりますが、こうした多様なデータ活用に欠かせないのがIoTやAIを始めとするIT・デジタル技術です。では実際に他社はそのような技術をどのように活用し、スマートファクトリーを実現しているのでしょうか?次回の後半記事で紹介します。