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“志”と“工夫”のDXでV字回復した企業事例

DXでV字回復を実現!危機を乗り越えた企業の取り組みとは?<後半>

前回は顧客志向を重視したDXでV字回復を達成した企業事例を取り上げました。今回はDXを推進するにあたって、志や熱意、工夫など、“人”の重要性がわかる事例を紹介します。

全社的なDXに欠かせない“志”と“人”

●危機がもたらした方向転換

味の素株式会社といえば、誰もが知る世界的食品メーカー。拡大路線により右肩上がりの成長を続けてきた同社でしたが、2010年代後半に一転、株価が急激に下落してしまいます。それをきっかけにスタートさせたのが、「食と健康の課題解決企業」を目指すというパーパス(企業の志)重視の経営への転換と、その実現のためのグループ全体でのDX推進でした。

顧客(生活者)一人ひとりに向き合い、それぞれのニーズに合った商品・サービスを届ける「パーソナライズドマーケティング」もそうした施策の一つです。パーソナライズドマーケティングを成功させるためには精緻な顧客理解が欠かせませんが、同社は購買履歴やWeb閲覧履歴といったデータ以外にも、Web記事やブログ、生活者の本音が表れやすいSNSの投稿などもデータとしてDMP(Data Management Platform)に蓄積。潜在的な嗜好や期待、健康課題を分析し、課題解決につながる製品開発や広告、情報発信に活用しています。

●グループ一丸で変革を推進

革新的なサービスを創出することはDXの主要目的ですが、同社の子会社であり、グループ内外の工場建設・改修などを手がける味の素エンジニアリング株式会社も、最新デジタル技術を活用したソリューションサービスを生み出しています。それが『PLANTAXIS®』という工場の設備管理サービスです。

『PLANTAXIS®』の特徴は、デジタルツイン技術により工場全体をレーザースキャンして、クラウド上に3Dデータとして再現できるところ。パソコン画面で設備の仕様やトラブル・補修履歴などの情報が得られ、工場に足を運ぶことなくトラブル解析やライン改修の検討、改修・補修の計画に必要な現場調査(測量)を実施することができます。

●“人”への投資がモチベーションを高める

こうした全社的なDXを実現するためには、従業員のIT・デジタルリテラシーの向上が欠かせません。同社でも、DXの重点KPIにDX人材(同社では「DX人財」という表記を使用)の増強数を採用するほど、人材教育に注力しています。2020年からは社内で「ビジネスDX人財」「システム開発者」「データサイエンティスト」を育成するための検収型教育プログラムを開始。中でもビジネスの高度化や新規ビジネス立案を担う「ビジネスDX人財」については、3年間で全従業員の約8割(延べ人数)が認定を取得するなど、組織全体のDXに対するモチベーションの高さがうかがえます。

その他、グループ内外の企業・組織を巻き込んだ新事業創出のためのエコシステム構築やサプライチェーンのスマートネットワーク化など、様々な変革を推進する同社。2020年には株価も一時の倍以上に上昇、再び成長路線に入り、V字回復を達成しています。とはいえ、DXによって2030年までに「食と健康の課題解決企業」として社会変革をリードする存在になることを目指す同社にとって、今回のV字回復はあくまで通過点に過ぎないのかもしれません。

参考:味の素グループのデジタル変革(DX) -アミノサイエンス®で人・社会・地球のWell-being に貢献する企業へ-(PDF)|味の素株式会社)

参考:DXで味の素社はどう変わる? 〜社会変革をリードする食品メーカーを目指して〜(味の素株式会社)

参考:DXソリューションが実現した工場のリモート設備管理サービス~クラウド上に再現された「3D工場」とは(味の素株式会社)

工夫と熱意こそ変革のための最強のリソース

ここまでは名の知れた企業の事例ばかりでしたが、もちろんDXは大企業の専売特許ではありません。リソースが限られた中小企業でも、工夫と熱意でV字回復を実現した企業が存在します。

●未経験経営者の挑戦

株式会社陣屋は、神奈川県で大正7年創業の温泉旅館『元湯 陣屋』を営む老舗企業。2000年代初め頃から経営状態が悪化し、リーマンショック直後の2009年には大赤字に陥ってしまいました。当時、そんな状況で社長と女将を引き継ぐことになったのが、宿泊業も企業経営も未経験の若い夫婦。事業再建のためにまず2人は、属人的・アナログ中心で非効率だった旅館業務と経営管理を改善するために、次の4つの経営改善方針を策定します。

  • ・情報の見える化
  • ・PDCAサイクルの高速化
  • ・情報は持つだけでなく活用させる
  • ・日々の仕事を効率化し、お客様との接点を増やす

そして、これらの方針を実現するために基幹システムの導入を検討しましたが、市販製品では自社にマッチするものは見つけられませんでした。そこで、限られた予算の中、SE経験者を1名採用し、クラウド型顧客管理システム『Salesforce』をベースに独自で基幹システムを開発したのです。

●自社開発のシステムがもたらした劇的な変化

システムには予約管理、顧客管理、営業管理、仕入・原価管理などの業務管理機能のほか、勤怠管理、売上分析といった経営管理全般にわたる機能も実装。ただし、いくら立派なシステムを用意したところで、現場のスタッフに使ってもらえなければ意味はありません。そこで女将は、思い切って紙のツールを廃止したり、要望を聞いてユーザーインターフェースを改善したり、親しみを感じてもらえるように『陣屋コネクト』という名前を付けたりと、様々な工夫を凝らします。

そうした努力の甲斐もあり、システム導入は同社に劇的な効果をもたらしました。情報の共有・更新に要していた手間の削減だけでなく、それまで各担当者が頭で記憶していた宿泊客の情報も共有(見える化)・活用できるようになったことで、スタッフ全員が先読みした細やかなおもてなしを実現できるようになり、サービスの質の向上にもつながったのです。

●自社DXのノウハウが企業成長を導く

こうした定性的な効果は売上にも反映され、ついにシステム導入から3年後に黒字転換を実現します。しかし同社のDXはこれだけでは終わりません。さらなる顧客満足向上と業務効率化を目指し、センサーにより設備の稼働状況を遠隔監視できるIoTを導入。スタッフは大浴場の水温や水位などの単純な点検作業から解放され、より宿泊客へのおもてなしに注力できるようになっています。

そして新規事業として、同業他社に『陣屋コネクト』を提供する株式会社陣屋コネクトを設立。現在では自社DXのノウハウを活かして、業務・経営支援サービスなども提供しています。2018年にはこうした取り組みが評価され、革新的なサービスを表彰する「日本サービス大賞」総務大臣賞を受賞。コロナ禍により一時的に落ち込みをみせたものの、その後も順調に成長を続けています。

参考:新しい旅館のあり方と地方創生~宿泊旅館業におけるDX事例~|株式会社陣屋、株式会社陣屋コネクト

参考:元湯陣屋 再建の道のり|株式会社陣屋コネクト

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