ECや人材育成にも——IT・デジタルを活用したゲーミフィケーション事例
再ブーム到来!?DXで注目を集める「ゲーミフィケーション」<後半>
IT・デジタル技術の発展やDXの普及に伴い、再び注目を集めつつあるゲーミフィケーション。後半記事では、社外向け・社内向けそれぞれの企業の取り組み事例を紹介します。
顧客エンゲージメントを向上させる、ゲーミフィケーション活用事例
世界的なスポーツ用品メーカーNIKEが無料で提供しているランニングアプリ『Nike Run Club』。ランニングアプリ自体は他社からも数多く登場していますが、同アプリのユニークな点は、ランニングをサポートするだけでなく、「楽しみながらモチベーションを向上してもらう」ための工夫を取り入れることで「顧客エンゲージメントの強化」を実現しているところです。
そのために活用されているのが、前半記事で紹介したゲーミフィケーションの要素。とりわけ次の3つの要素が効果的に取り入れられています。
・ビジュアライズ(可視化)
走行距離やルート、速度、消費カロリー、心拍数などを自動で記録できます。『ランレベル』という機能を使えば、ランナーとしての現在のレベル(ランレベル)も把握可能。ランレベルは走行距離によって自動で上がっていく仕組みになっており、モチベーション向上にも役立ちます。
・コミュケーション(交流)
「ランニングクラブ」というコミュニティ機能があり、ユーザー同士で声援を送り合ったり、記録を競い合ったり、実際に一緒に走ったりすることが可能です。また、自分のランニングの記録や画像をSNSでシェアできる機能も備わっています。
・リワード(報酬)
特定の回数(週3回、12か月連続など)または特定の日(元旦、誕生日など)にランニングして完走するとトロフィーがもらえます。チャレンジ内容は個人またはコミュニティでも設定可能です。
ECサイトにおける、ゲーミフィケーション活用事例
一般に商品以外でECの“強み”になりやすいのは「安さ」や「配送スピード」ですが、株式会社カウシェが運営する食品・日用品のECアプリ『カウシェ』では、「楽しさ」という新しい価値を提供することでユーザー数を伸ばしています。
その取り組みの1つが、2023年10月にアプリ内でリリースされた『カウシェファーム』。コーヒー・ミニトマト・お米などの中から好きな作物を選び、アプリ内の農場で毎日水やりをして育てるゲームです。
『カウシェファーム』の開発目的は、ユーザーに毎日アプリを楽しんで使ってもらうこと。そのために次のゲーミフィケーションの要素が取り入れられています。
・リワード(報酬)
収穫時期に育てた作物を収穫すると、本物の作物や関連商品の「100%OFFクーポン」が発行され、実質無料(送料が必要なケースを除く)で購入することができます。
・コミュニケーション(交流)
一緒に作物を育てる友達を掲示板で募集できる機能があり、友達を招待すると、作物の成長速度が早くなる追加の水などのアイテムを獲得できます。
その他、毎日アプリを開いてもらうための工夫として、1日1回、『カウシェファーム』で使う水や肥料の獲得にチャレンジできるガチャポン機能も追加。こうした取り組みにより、アプリの累計ダウンロード数は2024年3月時点で200万ダウンロードを突破しているということです。
参照:シェア買いアプリ「カウシェ」、アプリ内の農園で育てたデジタルの作物が、収穫後に実際の商品として届く※「カウシェファーム」機能をリリース|株式会社カウシェ
参照:創業4周年を迎えたお買い物アプリ「カウシェ」、累計200万ダウンロードを突破。新たに過剰在庫品等の処分品の「買取・販売事業」を開始|株式会社カウシェ
社内コミュニケーション活性化へ向けた、ゲーミフィケーション活用事例
サントリー食品インターナショナル株式会社は、2022年5月より『社長のおごり自販機』という法人向けサービスを全国展開しています。見かけは普通の自動販売機ですが、専用のカードリーダーが設置されており、社員2人でICカード式の社員証(または専用のICカード)をタッチすると、それぞれ選んだドリンクが無料で出てくるという仕組みになっています。
社長のおごり自販機 2人でタッチすると無料!?「社長のおごり自販機」 登場!|サントリー公式チャンネル(SUNTORY)
同サービスの目的は職場内コミュニケーションの活性化。そのための取り組みとして、次のようなゲーミフィケーションの要素が活用されています。
・リワード(報酬)
通常の報酬とは若干タイプは異なりますが、「欲しいドリンクが無料でもらえる」という報酬を設定することで、ユーザーが他の社員を誘う際の心理的ハードルを下げる仕組みを構築しています。ちなみに、ネームボードの「社長のおごり」の部分は、導入先に合わせて「事業部長のおごり」や「センター長のおごり」などにカスタマイズ可能です。
・コミュニケーション(交流)
同じペアでの利用回数を制限したり、新入社員とベテラン社員のペアで利用できるよう設定したりすることで、さまざまな社員間でのコミュニケーションを促進することができます。また、初めての社員同士でも自然に会話が弾むように、「タッチしてから10秒以内に商品ボタンを押さなければいけない」という絶妙に短い時間制限が設けられています。
人材育成のための、ゲーミフィケーション活用事例
・コミュニケーション(交流)
ゲーミフィケーションを取り入れた人材育成ツールは数多く登場していますが、とりわけユニークなのが中京テレビ放送株式会社から2023年にリリースされた『社員クエスト』です。メタバースを活用したシステムで、「問題解決能力」「アサーション(対人関係を円滑にするためのコミュニケーションスキル)」「チームビルディング」などの研修をゲーム感覚で受講することができます。
【サービス動画】若手社員の離職対策×エンゲージメント向上に!メタバース研修「社員クエスト」|中京テレビ SWINGプロジェクト
『社員クエスト』には次のようなゲーミフィケーションの要素が取り入れられています。
・ミッション(課題)
某超人気ゲームシリーズを思い起こさせるタイトル通り、研修はRPG(ロールプレイングゲーム)形式。受講者はゲームキャラクター風のアバター(分身)で参加し、次々に現れる課題をクリアしながらゴールを目指します。受け身になりがちな通常の研修と違い、楽しみながら主体的に取り組んでもらえます。
・コミュケーション(交流)
課題は基本的にワークショップ形式で、意見交換やグループワークを通して、受講者同士が協力して解決していくスタイルです。また、完全匿名機能やボイスチェンジャー(音声変換)機能など、受講者の自己開示のハードルを下げ、コミュニケーションを促進する機能も備えています。
今回は4社の事例を紹介してきましたが、他にも来店促進やキャンペーン、マーケティング、倉庫作業のモチベーション向上、街づくりなど、さまざま領域でゲーミフィケーションは活用されています。自社の事業や組織を変革するために、ゲーミフィケーションの活用を検討してみる価値は大いにあるのではないでしょうか。
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