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人事DXで給与計算のクラウドシフトを最優先すべき理由

人事部門にも迫るDX「2025年の崖」<後半>

給与計算クラウドサービスを導入するメリット

前回、人事部門のDXは「自動化分野」「意思決定分野」の2ステップで進めることが得策であり、一つ目の「自動化分野」フェーズにおいて最優先すべきは給与計算向けクラウドITツールの導入である、とお伝えしました。

しかし、なぜ給与計算業務なのでしょうか? もちろん業務自体の煩雑さやヒューマンエラーを防げることも大きな理由ですが、それ以上の理由としては、「システム移行に時間がかかる」ということです。

いわゆる「2025年の崖」を越えるためには既存システムのクラウドシフトが必須条件と言われていますが、とりわけ支社やグループ企業を抱える大手・中堅企業では、複雑な給与制度に対応するためにシステムをカスタマイズしたり、ACCESSやEXCELなどのサブツールを活用したりしていることが多く、クラウドへの移行に相当の手間と時間を要することが予想されます。現在付き合いのないSlerが開発したシステムであったり、自社開発であっても開発者が退職したりしている場合は尚更です。

つまり、人事のDXを2025年に間に合わせるためには、システム移行に時間のかかる給与計算業務のクラウドシフトをいち早く行っておくことが最善策というわけです。

給与計算クラウドITツールにはいくつか種類がありますが、先ほど例に挙げたような大手・中堅企業であれば、複雑な給与制度に対応しているものがベストです。勤怠管理システムから勤怠情報を吐き出して取り込む作業が不要になりますし、税率や保険料率の改定あった場合も自動で計算に反映されるので、大幅に業務時間が短縮されます。給与の他、賞与・年末調整・社会保険・生損保・休暇・退職金などの計算も自動化され、それぞれの明細もワンクリックで発行可能です。

さらに、給与計算クラウドITツールをDXの基盤ツールであるRPA、AI-OCRと連携させれば、より自動化の領域を広げることが可能です。RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)とは、データ入力などのパソコンを使った定型作業を自動化できるITツール。AI-OCR(オプティカル・キャラクター・リーダー)はAIを活用した光学的文字認識ソフトウェアで、FAXなどの手書き文字も読み取ってデジタルデータ化できます。

例えば小売業で全国にチェーン展開しているある企業では、毎日店舗から本部にFAXで送られてくる勤怠状況や採用情報の登録作業を自動化するために、給与計算クラウドITツールとRPA、AI-OCRを連携させています。給与対象者は約3,000人、しかもアルバイトの出入りが激しく、それまでは正確に業務をこなすだけでも精一杯という状況でしたが、一連の作業をITツールに置き換えることで作業時間は大幅に減少したということです。AI-OCRを使って、各店舗の作業を無理にデジタルシフトさせなかったことも、混乱なく自動化を実現できた要因の一つでしょう。

戦略人事を実現するためにはDXにも戦略が必要

ただし、この連携事例はあくまで成功事例の一つであって、すべての企業に最適というわけではありません。支店や支社がなく、勤怠管理は紙のタイムカードで行っている企業であれば、AI-OCRよりも、前回紹介した労務管理用のクラウドITツールを利用して、社員に直接クラウド上に勤怠情報を入力しもらうというやり方のほうが効率的でしょう。自社に適したITツールやクラウドの選択や運用方法については、信頼できる、もしくは人事領域に明るいパートナー会社やベンダーに相談することをおすすめします。

給与計算のクラウドシフトを最優先する以外に「自動化分野」フェーズのポイントを挙げるとすれば、次ステップの「意思決定分野」フェーズに備えながら進めることです。具体的には、AIやビッグデータの導入を見越し、ヒトとITの役割分担が最適化できる業務プロセスを構築しておくこと。そのためにBPM(ビジネス・プロセス・マネジメント)ツールを活用するのも良いでしょう。

BPMツールはその名の通り、業務改善のためのソフトウェアです。業務プロセスの課題を「見える化」し、複雑化・ブラックボックス化した業務を「標準化」するのに役立ちます。まずはBPMで現状の人事業務プロセス全体を見直し、各フェーズにおけるヒトとITの役割分担を設定しておくと、「自動化分野」から「意思決定分野」への移行がスムーズになります。戦略人事を実現するためには、DXの進め方にも戦略が必要です。

前回もお伝えした通り、リソース不足が人事部門の課題とはいえ、それは他部門も同じはずです。にもかかわらず、業績に直結する部署でないせいか、営業や製造部門のような変革への意欲はあまり伝わってきません。

しかし今後、人事部門に求められる役割がますます大きくなることは間違いありません。ざっと思い付くだけでも、全社的なDXを推進するための人材確保・育成、長期的なコロナ禍を見越した働き方改革、そのための新しい採用方法と人事評価制度の確立など、山のようにあります。

VUCAとも呼ばれる先行き不透明な時代、経営層が人事部門に期待しているのは、企業成長に貢献する「攻め」の部署への変革です。そしてその成否は、ひとえに人事部門が「2025年の崖」を換えられるかどうかにかかっている、と言っても良いのではないでしょうか。

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