新たな市場を開拓! IT・デジタルを活用した新規ビジネス創出事例
DX推進企業に学ぶ!IT・デジタルを活用した新規ビジネス創出事例<前半>

市場環境の変化が加速し、先行き不透明感が増すばかりの昨今、多くの企業がこれまでの枠にとらわれない新たなビジネスを模索しています。そんな中、注目を集めているのが、IT・デジタル技術を活用して次々と革新的な事業やサービスを生み出しているDX推進企業です。今回は、そうした企業の取り組みの中から、自社の新規事業開発のヒントとなるような事例を紹介します。
オフラインとオンラインをつなぐOMOビジネス創出事例
OMO(Online Merges with Offline)は、ECサイトやアプリなどのオンラインと、実店舗などのオフラインを融合させて新たな顧客体験を創出する戦略です。もともとは小売業で注目されていましたが、近年では他業界へも広がりを見せています。
2024年4月、西武鉄道株式会社はスタートアップ企業の株式会社SPACERと連携し、オンラインで購入した商品を駅構内や商業施設に設置しているコインロッカーで受け取れるサービス『BOPISTA(ボピスタ)』を本格稼働させました。
会員制量販店『コストコ』など人気ショップと提携しており、購入できる商品は食料品、日用品、コスメ、雑貨など多岐にわたります。駅によっては冷蔵ロッカーも設置しており、生鮮食品やスイーツの受け取りも可能です。
利用方法はシンプルで、ユーザーは会員登録後に『BOPISTA』のLINE公式アカウントと連携し、専用サイトで商品を注文。指定した日時に駅へ行き、専用アプリでロッカーを開錠して商品を受け取ります。靴の修理や古本の買取サービスについては、店舗を訪れることなく、ロッカーに修理品・買取商品を預けるだけでサービスを利用することができます。
Webサイトでは「これまで人々のハブであった駅を物流やサービス提供のハブとして機能をリデザイン」(※)と謳っていますが、商品配送に鉄道を使用している点も含め、自社の資産を新たなビジネスモデルに応用した好事例と言えるでしょう。
参照:スマートロッカーを活用した物流ハブサービス 「BOPISTA(ボピスタ)」が4月17日より本格稼働します!|西武鉄道株式会社
既存事業の知見を応用した新規ビジネス創出事例
既存事業で培った資産=”知見”を新規ビジネスへ応用している好事例が、キリンホールディングス株式会社のサービスです。ビールや清涼飲料水などの飲料メーカーとして広く知られる同社は、2019年にヘルスサイエンス領域へ本格参入。そこで新たに立ち上げたのが、薬局業界向けのサービス『premedi(プリメディ)』です。
『premedi』をひと言で言うと、調剤薬局向けの置き薬サービス。多くの調剤薬局の経営課題である、在庫の予測が難しく、欠品・廃棄リスクの高い「取り扱い頻度の低い医薬品」の在庫管理を効率化できることが大きな特長です。
その中核を担うのが、キリングループのマーケティングリサーチの知見を活かした独自のAI予測リコメンド手法です。調剤薬局の過去の出荷データをもとに将来的な利用確率を推定し、取り扱い頻度の低いものも含め、調剤の可能性がある医薬品を薬局ごとに提案することができます。
在庫は専用の保管棚と連動したクラウドシステムで管理。使用期限が近付いた医薬品は『premedi』側が買い取って新たな医薬品に入れ替えるので、廃棄も不要です。2023年11月のトライアル開始時点では50店だった導入店舗も、2024年8月には130店にまで拡大。同年10月には全国展開をスタートさせています。
参照:調剤薬局向けAI置き薬サービス「premedi(プリメディ)」4月26日(火)から首都圏を中心にテスト展開開始|キリンホールディングス株式会社
参照:キリンの新規事業、調剤薬局向け置き薬サービス「premedi」10月より高田製薬との全国展開を開始|キリンホールディングス株式会社
メーカーの直販型サブスクリプションビジネス創出事例
サブスクリプションビジネスとは、一般に月額・定額制で継続的に商品やサービスを提供するビジネスモデルを指します。『Netflix』や『Spotify』などのデジタルコンテンツ配信サービスが代表的ですが、近年ではメーカーが小売や卸業者を介さずに、直接エンドユーザーへ商品を提供する直販型のサブスクリプションビジネスに参入するケースも増えています。
衛生用品や介護用品の大手メーカーであるユニ・チャーム株式会社は、2019年7月より、BABY JOB株式会社との協業により、保育施設向けの紙おむつサブスクリプションサービス『手ぶら登園』を展開しています。
『手ぶら登園』は保育施設に毎月紙おむつやおしりふきを直接届けるサービスです。料金は月額定額制で、紙おむつなどの使用枚数に制限がなく、使い放題となっています。
保育施設に提供される在庫管理・発注システムにはAIを活用。園児ごとの登録情報や使用状況をもとに在庫が減少するタイミングを予測し、必要な発注数を自動で計算する仕組みを構築しています。
サービス導入により、保護者は毎日のおむつの準備や持ち帰りの手間が不要になります。また保育施設にとっても、保育士のおむつ管理の負担を軽減できることは大きなメリットです。サービスは順調に拡大しており、開始から約5年後の2024年9月時点で、全国5,200以上の保育施設に導入されています。
中小企業のAIを活用した新規ビジネス創出事例
ここまでは大企業の事例を紹介していきましたが、もちろん中小企業でも最先端技術を活用して新規ビジネスを創出している企業は少なくありません。福岡県北九州に本社を構える株式会社リョーワもそのうちの1社です。
創業から半世紀以上にわたり、生産機械に使われる油圧装置の販売・修理・メンテナンスを手掛けてきた同社は、業界内の「脱油圧化」の流れや人口減少による市場の縮小を見すえ、2018年に外観検査(製品・部品の外観上の欠陥を検査する作業)装置事業に参入します。そこで独自に開発したのが、中小製造業向けのAI外観検査システム『CLAVI®』です。
『CLAVI®』は事前に画像で学習(ディープラーニング)した基準をもとに不良品を検出するシステム。AIによる画像処理技術を活用しているため、検査スピードの向上はもちろんのこと、従来の目視検査や画像検査機では識別が困難だった欠陥を検出することも可能です。
また、クラウドサービス(アプリケーション)として提供されており、高額になりがちなAI導入コストを抑え、中小企業でも導入しやすい価格を実現しています。操作も簡単で、スマホやタブレット、スマートグラスなど、カメラを搭載したデバイス上でアプリを起動し、検査したい対象にカメラを向けるだけ。専門知識のない現場スタッフでも使用することができます。
後半記事では生成AIを活用したサービスを含め、さらにバラエティに富んだ事例を紹介します。