生成AI活用サービスも!IT・デジタルを活用した新規ビジネス創出事例
DX推進企業に学ぶ!IT・デジタルを活用した新規ビジネス創出事例<後半>

前半に引き続き、今回もDX推進企業のIT・デジタルを活用した新規ビジネス創出事例を紹介します。
企業をつなぐプラットフォームビジネス創出事例
プラットフォームビジネスとは、一般にインターネット上で商品・サービスの取引がおこなえる場(基盤)を提供するビジネスを指します。デジタル時代の新たな価値創出手法として注目されており、出品者と購入者をつなぐ『メルカリ』や、飲食店・利用者・配達員を仲介する『UberEATS』などが代表的です。
こうしたプラットフォームビジネスを製造業向けに展開しているのが、日本製鉄株式会社初の社内ベンチャーである株式会社KAMAMESHIです。同社は2024年4月、中小製造業の部品調達を支援する設備部品管理・マッチングプラットフォーム『KAMAMESHI』を正式リリースしました。
現在、多くの中小製造業が抱える課題が「工場設備の老朽化」。『KAMAMESHI』は、そうした企業同士を名前の通り「同じ釜の飯を食う」仲間としてつなぎ、設備に必要な部品の売買を可能にするサービスです。
主なサービス内容は、在庫管理システムと部品売買プラットフォームの提供。ユーザー企業には、手に入りにくい部品や資材を素早く調達できる、不要になった部品を出品することで過剰在庫を減らせる、在庫管理や棚卸作業が大幅に効率化できる、といった導入メリットがあります。
加えて、設備保全全般に関するコンサルティング業務も請け負っており、専門の保全技術者による設備の現状調査や課題抽出、改善対策の検討、設備保全人材の育成などを、ユーザー企業各社の課題・ニーズに応じて提供しています。
参照:日本製鉄発のスタートアップKAMAMESHI、中小製造業向けの設備部品管理・マッチングプラットフォーム「Kamameshi」有償版をリリース|株式会社KAMAMESHI
参照:日本製鉄発のスタートアップKAMAMESHI、サービス提供開始からわずか9カ月で、導入実績100事業所を突破|株式会社KAMAMESHI
生成AIを活用したBtoCビジネス創出事例
既に生成AIを活用したサービスを創出している企業もあります。
大手総合化学メーカーであり、DX先進企業としても知られる旭化成株式会社。同社とその住宅領域の事業を担う旭化成ホームズ株式会社は、2022年に旭化成グループの社内ベンチャーとして株式会社コネプラを設立し、マンション住民向けコミュニティ醸成サービス『GOKINJO(ゴキンジョ)』の提供を開始しました。
『GOKINJO』は、マンション居住者の“ちょうどいい”ご近所づきあいを、デジタル(スマートフォンアプリ)とリアル(コミュニティ活動支援)の両面から支援するサービスです。例えばアプリには、日常的な情報交換や不用品の譲渡・シェア、共用施設の予約、地域情報やクーポンの配信といった、居住者同士や周辺地域との交流を促進する機能が備わっています。
リアルサービスでは、居住者同士や近隣住民との交流イベントの企画・運営、防災訓練の実施・サポートを提供。交流イベントは、これまでに無農薬野菜の共同購入イベントや子供向けのお絵描きイベントなどが開催されています。
同サービスのデータ分析に活用されているのが生成AIです。数万件以上にのぼる日常的なアプリへの投稿内容から居住者の興味関心やニーズを抽出。サービス改善や防災・共助に関する研究につなげているということです。
参照:コネプラ|人と人とのちょうど良いつながりをつくる|株式会社コネプラ
生成AIを活用したBtoBサービス創出事例
BtoB領域でも生成AIを活用したサービスが登場しています。中でもユニークなのが、株式会社日立製作所が2025年4月に提供を開始した『ノウハウ視える化・継承ソリューション』です。
人材の流動性が高まる中、従業員の退職・異動によって業務の知見やノウハウが失われることは、多くの企業が直面する共通課題。同サービスでは、そのような属人化しがちな実務ノウハウの継承と定着を、組織的かつ計画的に進める仕組みを提供しています。その大きな特長が、個人の勘や経験に基づく“暗黙知”を含めてノウハウを整理・可視化できる点です。
まず、手順書や業務ドキュメントにまとめられているノウハウを「技術」「業務」「プロセス」「人的コネクション」の4種類に分類。その上で、同社の製造現場で培われた技能伝承手法などを応用し、暗黙知を把握・文書化していきます。そして整理・可視化したノウハウを業務フローに組み込み、継承計画や教育、定着状況をダッシュボード上で一元管理することで、進捗管理の効率化と業務継続性の確保を実現します。
ノウハウの抽出と定着のプロセスで中核的な役割を果たすのが生成AIです。従業員からの問い合わせにはチャット形式で回答。さらにノウハウ定着度を測るテストを自動生成する機能も備えており、従業員の習熟度を定期的に把握することも可能です。
参照:ノウハウ視える化・継承ソリューション|株式会社日立製作所
参照:企業の実務に必要なノウハウの計画的な継承と定着を実現する「ノウハウ視える化・継承ソリューション」を提供開始|株式会社日立製作所
次世代サービス領域での新規ビジネス創出事例
自動車メーカーのダイハツ工業株式会社は、テクノロジーを活用した次世代交通サービスMaaS(Mobility as a Service)の分野で新たな事業を展開しています。そのうちの1つが、2022年4月に販売を開始した通所介護(デイサービス)施設向けの共同送迎サービス『ゴイッショ』です。
『ゴイッショ』は、地方自治体向けに、複数の通所介護施設がそれぞれ個別でおこなっている送迎業務をシステムで集約するサービス。施設の大きな負担となっている送迎業務の効率化や人材不足の解消、高齢者の移動手段確保の実現を支援しています。
具体的なサービス内容としては、共同送迎運行管理システムとスマートフォンアプリの提供、さらに自治体や事業者の状況に応じて、共同送迎の導入・仕組みづくりのサポートもおこなっています。
共同送迎を実施するうえで負担となるのが複雑な送迎ルートの作成ですが、『ゴイッショ』の運行管理システムにはダイハツ独自開発のアルゴリズムを用いたAIを搭載。複数の施設・利用者・車両の条件を考慮した最適な送迎ルートとスケジュールを自動で生成することが可能です。
また、遅延や急なキャンセルなどのイレギュラーな事態が発生した際は、スマートフォンアプリを通じて管理者と送迎ドライバーがリアルタイムで情報共有できるので、柔軟に対応することができます。
チャレンジを促す「風土づくり」が重要
今回紹介したようなユニークかつ革新的な事業・サービスは、当然ながら、ただ待っていても自然に生まれるものではありません。かといって、上からの指示や義務的なブレインストーミングを繰り返したところで、創造的なアイデアの創出は期待できません。重要なのは、社員のチャレンジを促し、提案から事業化までを支援する制度や仕組みを設計することです。
たとえば、数々の新規事業を生み出してきた株式会社リクルートには、社員の提案から事業化までを仕組み化した制度があります。今回取り上げた事例でも、『KAMAMESHI』は日本製鉄株式会社の社内起業制度から、キリンホールディングス株式会社の『premedi』も、社員からビジネスアイデアを募集し新規事業化を支援する『キリンビジネスチャレンジ』という制度から生まれた事業です。
もちろん、ビジネスにIT・デジタルを効果的に活用するためには一定のITリテラシーやデジタルスキルは必要ですが、社員の消極性やアイデア不足に悩んでいる企業は、こうした新しいチャレンジが生まれる“風土づくり”の観点から自社を見直すことが、第一歩となるかもしれません。