もはやスーパーマン!? DX推進人材「ビジネスアーキテクト」のミッション
“なんちゃってDX”を防ぐキーパーソン「ビジネスアーキテクト」とは?
企業がデジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組む際、最初に直面する課題の一つが「DX推進人材の不足」です。DX推進人材とひとくちに言っても、データサイエンティストやサイバーセキュリティ人材などいくつかの職種が存在しますが、IPA(独立行政法人 情報処理推進機構)が2024年6月に公表した『DX動向2025』によると、日本企業で最も足りないのが「ビジネスアーキテクト」の役割を担う人材です。
ビジネスアーキテクトとは何者か?
ビジネスアーキテクトという言葉に馴染みのない方も多いかもしれません。一般的には「アーキテクト=設計者」というイメージから、ビジネスの戦略や仕組みを設計するポジションと捉えられがちですが、しかし実際の役割はそれにとどまりません。
経済産業省とIPAが策定した『デジタルスキル標準』では、ビジネスアーキテクトを次のように定義しています。
「DXの取組みにおいて、ビジネスや業務の変革を通じて実現したいこと(=目的)を設定したうえで、関係者をコーディネートし関係者間の協働関係の構築をリードしながら、目的実現に向けたプロセスの一貫した推進を通じて、目的を実現する人材」
出典:デジタルスキル標準 ver.1.2(p.71)|IPA、経済産業省
つまり、ビジネスアーキテクトは単なる設計者ではなく、DXの真の目的であるX(トランスフォーメーション=変革)を牽引する推進役であり、DXの成否を握るキーパーソンと言っても過言ではありません。裏を返せば、ビジネスアーキテクトのいない組織は、IT・デジタルツールを導入しても何の変革にもつながらない、いわゆる“なんちゃってDX”に陥るリスクが高まるという訳です。
では、DXでの変革を実現するために、ビジネスアーキテクトは具体的にどのような業務に携わるのでしょうか。
ビジネスアーキテクトの業務内容とミッション
ビジネスアーキテクトが担当する業務は企業の規模や状況によって異なりますが、先述の『デジタルスキル標準ver.1.2』では、ビジネスアーキテクトが関わる領域を大きく「新規事業開発」「既存事業の高度化」「社内業務の高度化・効率化」の3つに分類し、それぞれの領域で担うべき主な業務を明確化しています。
新規事業開発
・社内外の環境、社会課題、顧客・ユーザーの課題を踏まえたビジネスの目的設定
・ビジネスモデルやビジネスプロセスの設計と技術や手法・ツールの選定
・PoCを通じた目的検証
・ローンチに向けた事業計画決定やソリューションの要件の具体化
・事業のモニタリング(KPIの設定・モニタリング、顧客のフィードバック収集)
・改善施策や収益性向上施策の検討・実行
既存事業の高度化
・既存製品・サービスや業務の課題と課題解決を通じて実現できる目的の設定
・ビジネスプロセスの設計と技術や手法・ツールの選定
・PoCを通じた目的検証
・ソリューションの要件の具体化
・事業のモニタリング(KPIの設定・モニタリング、 顧客のフィードバック収集)
・改善施策や収益性向上施策の検討・実行
社内業務の高度化・効率化
・業務課題の特定と課題解決の目的設定
・業務プロセスの設計と技術や手法・ツールの選定
・PoCを通じた目的検証
・要件具体化、ソリューション実装
・継続的な改善
出典:デジタルスキル標準ver.1.2(p.105)|IPA
各業務の詳細はここでは割愛しますが、特筆すべきは、いずれの領域においても「構想→PoC→実装・普及→効果検証・改善」というプロセス全体に、一気通貫でコミットする点です。ビジネスサイドとIT・デジタルの現場を縦横無尽に行き来しながら、組織全体を巻き込み変革を推進していく——もはやスーパーマン級のミッションと言っても、決して大げさではないでしょう。
次回の後半記事では、このようなビジネスアーキテクトに求められるスキルセットと、企業の育成事例を紹介します。















