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どう育てる!? 「ビジネスアーキテクト」の必須スキルと企業の育成戦略

“なんちゃってDX”を防ぐキーパーソン「ビジネスアーキテクト」とは?

前半記事では、DX推進人材の一つ、ビジネスアーキテクトの役割と主な業務について解説しました。今回は、そのミッションである「ビジネスと業務の変革」を実現するために求められるスキルと、DX推進企業による育成の取り組み事例を紹介します。

ビジネスアーキテクトに求められるスキル

前回紹介したように、ビジネスアーキテクトは「新規事業開発」「既存事業の高度化」「社内業務の高度化・効率化」の3つの領域において、構想から実行、改善までを一貫して推進する役割を担います。そのため、ビジネスやテクノロジー、セキュリティなど、幅広い知識とスキルが求められます。

IPAと経済産業省が策定した『デジタルスキル標準』では、「新規事業開発」と「既存事業の高度化」の領域で特に高い実践力と専門性が求められるスキルとして、以下のようなものが挙げられています。

〈戦略・マネジメント・システムに関するスキル〉

・ビジネス戦略策定・実行

ビジネス戦略設定や製品・サービスへの経営資源配分を最適化するスキル

・プロダクトマネジメント

製品・サービスのライフサイクル全体を通じて価値を継続的に向上させるスキル

・変革マネジメント

変革推進における阻害要因の特定、施策立案、及び関係者を巻き込むスキル

・システムズエンジニアリング

システム開発において多様な領域の知見を統合し、全体最適を実現するスキル

・エンタープライズアーキクチャ

企業を構成する事業、業務、データ、ITシステムを標準化・全体最適化するスキル

〈ビジネスモデル・プロセスに関するスキル〉

・ビジネス調査

ビジネス環境や市場の状況、事業の成功要因・成長課題を把握するスキル

・ビジネスモデル設計

製品・サービスの目的・ビジョンの策定と収益構造を設計するスキル

・ビジネスアナリシス

製品・サービスの提供に必要な活動やデジタル化領域を明確化するスキル

・検証(ビジネス視点)

製品・サービスのビジネスとしての持続可能性を検証するスキル

この他、プロジェクトマネジメント、顧客・ユーザー理解、価値発見・定義、マーケティング、ブランディング、データ理解・活用、AI活用戦略、プライバシー保護などに関するスキルも重要スキルとして位置付けられています。

また、もう一つの主要な任務である「社内業務の高度化・効率化」においては、変革マネジメントのスキルが最も重要度が高く、次いでプロジェクトマネジメント、データ理解・活用、プライバシー保護が挙げられています。

さらに、推進役を担うビジネスアーキテクトには、上記の専門スキルに加え、パーソナルスキル(人間的側面のスキル)も必須です。中でもリーダーシップ、コミュケーション能力、折衝力、創造的な問題解決、批判的思考は、プロジェクトを成功へ導くうえで欠かせません。

参照:デジタルスキル標準 ver.1.2(p.100-102)|IPA、経済産業省

もっとも、DX推進人材の不足が叫ばれている中、こうしたスキルをすべて備えた人材を外部から採用するのは現実的ではありません。そのためDX推進企業では、既存社員を対象に体系的な育成に取り組む企業も増えてきています。

DX推進企業のビジネスアーキテクト育成事例

ここでは株式会社ファミリーマートとキリンホールディングス株式会社の育成事例を紹介します。両社の取り組みの共通点が、組織全体のDXリテラシー向上を基盤に据えていること、そしてビジネスアーキテクト育成を単なる知識・スキル習得にとどめず、「成果創出」にこだわったカリキュラムを用意している点です。

株式会社ファミリーマート

株式会社ファミリーマートでは、2023年度からIT・デジタル人材の育成プログラムを開始し、「社内業務の高度化」を担うビジネスアーキテクトの育成を進めています。

プログラムは3段階構成で、まず全社員を対象に「DXリテラシー教育」を実施。その後、アセスメント(社員のスキルや適性を客観的に分析・評価する仕組み)によって社員を選抜し、対象者はビジネスアーキテクトに必要なデジタル知識を習得する「DX推進リテラシー研修」に進みます。

最後の段階は、デジタルを活用した事業変革プランの立案スキルを習得する「DX推進スキル研修」。研修内での立案に加え、社内向けの企画プレゼンもおこない、優れたプランは実際に採用・実現される仕組みとなっています。

参照:デジタルスキル標準(DSS)活用事例集|IPA(独立行政法人 情報処理推進機構)
参照:人財育成の取り組み|株式会社ファミリーマート

キリンホールディングス株式会社

キリンホールディングス株式会社では、独自のデジタル人財育成プログラム『DX道場』にてビジネスアーキテクトを育成しています。受講者は全社員を対象に手挙げ式で募集。「白帯」「黒帯」「師範」とレベル別にコースを設け、オンライン講座と認定試験を通じて体系的にスキルを習得できる仕組みで2021年にスタートしました。

2025年からは学びをさらに成果に結びつけられるよう研修内容を拡充。同社が目指すビジネスアーキテクトの役割を5つに再定義し、それぞれに求めるスキルを『KIRIN-DSS(キリン-デジタルスキル標準)』として明示することで、より実践的なカリキュラムへと進化させています。

参照:デジタル基盤強化 ビジネス成果の創出を支えるデジタル基盤強化|キリンホールディングス株式会社
参照:DX人材育成プログラム「キリンDX道場」を7月から開校|キリンホールディングス株式会社
参照:「KIRIN Digital Vision2035」を公開、従業員のデジタルスキルを強化する「DX道場」の研修内容も拡充|キリンホールディングス株式会社

まずは「基盤づくり」から

今回紹介したビジネスアーキテクトの役割やスキルセットを見て、「自社ではとても育成なんてできない」と感じられた方は多いかもしれません。とはいえ、「超」が付くほどの大企業でさえ、試行錯誤を重ねながら育成に取り組んでいるのが実情です。

『デジタルスキル標準』は確かに信頼できる指針ですが、それに縛られて動けなくなるのは本末転倒です。重要なのは、名称や形にとらわれず、自社に合ったやり方で変革をリードできる「X人材(トランスフォーメーション人材)」を育成することのはず。

その第一歩として効果的なのが、事例で取り上げた2社も実践している「組織全体のDXリテラシーの底上げ」です。「X人材」の必要性を感じながらも動き出せていない企業、そして“なんちゃってDX”で終わりたくない企業は、まずはこの基盤づくりから始めてみるのも良いでしょう。

※なお、自社で育成プログラムを構築するのが難しい場合は、経済産業省とIPAが運営するデジタル人材育成プラットフォーム『マナビDX(デラックス)』を活用するのも有効です。DXリテラシー向上やビジネスアーキテクトに必要なスキルを、オンラインで体系的に学ぶことができます。

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