DEMの概念と重要性
Digital Experience Monitoring(DEM)
~ユーザー体験を可視化する新たな監視軸~
デジタル化が進む現代、企業の競争力は単に機能や性能だけでなく、「ユーザーが実際に体感する体験」に左右されるようになってきています。ウェブサイトの遅延、モバイルアプリの応答不良、APIのタイムアウトなどは、ユーザー満足度を即座に損ない、離脱や売上減少に直結します。
こうした問題を予防・検知し、改善のアクションにつなげる手法として注目されているのが Digital Experience Monitoring(DEM)です。DEM は単なるインフラ監視を超え、エンドユーザー視点での体験品質を可視化し、ビジネス成果と結びつけるための監視・解析アプローチです。
本稿では、DEMとは何か?DEMの価値と導入メリットなどを整理したうえで、後半で国内外の導入例や展望などを解説します。
DEMとは何か? — 定義と位置づけ
DEM(デジタル体験モニタリング)とは、ユーザーがアクセスする Web/モバイルアプリケーション、API、クラウドサービスなどを通じて得られる体験を、性能・可用性・ユーザーインタラクションの視点から定量的に把握する技術・手法を指します。
従来のインフラ監視やネットワーク監視は、サーバ、ネットワーク機器、ストレージなどのリソース稼働状態を中心に見るものでした。一方、DEMはユーザーとシステムの接点、つまり「ユーザー視点」での応答遅延、エラー発生、操作完了率などを重視します。これにより、技術的状態と実際のユーザー体験とのギャップを埋める橋渡し役となるのです。
また、DEMは APM(Application Performance Monitoring)の発展形と位置づけられ、APMに含まれる「アプリ可視化・トレース・診断」に加えて、エンドユーザー・ジャーニーの可視化を融合させた観点を持ちます。
DEMの構成要素
DEMは、ユーザーが実際にアプリや Web を使ったときの「体験」を多角的に測るため、複数の視点を組み合わせて構成されています。重要なのは「ユーザーがどのように見えているか」「不満が溜まるような状態になっていないか」などを正しく掴むことです。以下に主な構成要素を紹介します。
リアルタイムでのユーザーモニタリング
実際のユーザーが操作したときの画面表示速度、クリック後の反応、エラー発生などの“リアルな体験”を記録します。
⇒現場のユーザーが本当に困っているポイントを可視化できます。
端末などの環境状態の把握
ユーザーの端末性能、ブラウザ、OS、Wi-Fi/4G・5G の状況などを取得します。
⇒タッチポイントのアプリだけではなく“インフラなどの環境要因”が問題のときも切り分けられます。
ネットワークパスの可視化
ネットワークスピードは重要です。ユーザー端末からクラウドや APIまでの経路を追い、遅延・混雑・パケットロスなどを特定します。
⇒どこでネットワーク遅延がでているか、などかがすぐにわかります。
異常検知とアラート
過去の傾向と比較し、「いつもと違う遅さ」や「エラー急増」を自動検知します。
⇒問題の早期発見が可能になります。
DEM導入の価値とメリット
DEMを導入することで得られる主な価値とメリットを、技術・ビジネス・運用面などから整理します。
障害発生前検知が可能になる
予兆的な異常を早期に捉えることで、ユーザー影響前に対応が可能になります。
運用の効率化ができる
複数ツールを全体監視することにより、一元視点から運用対応が可能になります。
離脱率/解約率低減が可能になる
体感の悪い操作遅延やエラーを改善することでユーザーの離脱を抑制します。
コンバージョン改善へ結びつく
UX改善によって購入や申込み完了率の向上が可能になります。
顧客満足度/ブランド信頼性向上ができる
顧客への安定した体験提供はブランド価値にも繋げることができるでしょう。
導入を始める際の留意点・ポイント
DEMを効果的に導入するには、以下のポイントを押さえることが重要です。
計測ポイントの明確化
ユーザー操作、API、外部サービスなど、どこを監視するかを明確にします。体験に影響する部分を優先します。
データ統合の仕組みづくり
リアルタイムユーザーモニタリング、合成監視、ログ、トレースなどのデータを一元的に扱える基盤が必要です。
わかりやすい可視化
問題点を素早く把握できるダッシュボード設計が求められます。
プライバシー・セキュリティ確保
個人情報を含む可能性があるため、アクセス制御や匿名化、暗号化などの対応が必要です。
今回は、DEMの基本概念、構成要素、導入のメリットなどについて整理しました。後半では、国内外の導入事例や、導入時の課題、今後の技術トレンド・展望などについて解説します。












