コロナ禍で激変したマーケティングの常識とDXの必要性
マーケティングDX最前線2021<前半>
一度変わった購買行動は元に戻らない
マーケティングを成功に導くために、社会と市場(競合含む)の動向、そして顧客・消費者心理の理解が必要であることは、基本中の基本とも言えるノウハウです。しかし、実際にそれらを十分理解し、施策に落とし込み、自社の売上アップに貢献しているマーケティング部門は果たしてどれくらい存在するのでしょうか。
いきなりこのような問いから始めたのは、まだまだ多くの企業が、十年一日のごとく代わり映えのないマーケティング施策を続けているような気がしてならないからです。しかし当然ながら、社会も市場も消費者心理も変化します。直近でとりわけそれが顕著なのは、コロナ禍におけるビジネスや購買行動のデジタルシフトでしょう。ビジネスではリモートでの業務や会議、商談が常態化し、展示会やセミナーも軒並みオンライン開催。消費者の購買行動においては、EC利用世帯が初めて5割に達しました(総務省「家計消費状況調査(2020年5月分)」)。いずれもコロナ禍以前には考えられなかった事態です。
少し前までマーケターの常識だった「シニア世代はインターネットに疎い」という認識も、もはや時代錯誤になりつつあります。2020年12月の総務省の調査では「世帯主が70代以上の高齢者の世帯でもEC利用率は2割を超えた」と報告されていますし、他にも「アクティブシニアの8割が新型コロナウイルスに関する情報をインターネットで収集している」というアンケート結果も発表されているからです。
重要なのは、このように一度デジタルの利便性を知った人々の購買行動は、近い将来コロナ禍が収束しても簡単に元に戻ることはないということです。となると、業界問わずマーケティングにおけるデジタル活用はますます加速するでしょうし、これまでデジタルを十分に活用してこなかった企業の参入も予想されます。Amazonのように業界を飛び越えて脅威を与える競合が現れることもあり得ますし、規模もネームバリューも劣る企業が下剋上を起こす可能性も否定できません。巨額のコストを投入せずとも、アイデア次第で一気に情報を拡散できるのがインターネットの世界です。
このように社会も市場も消費者も大きく変わってゆきつつある現在、注目を集めているのが、従来のマーケティングを一変させるマーケティングDX(デジタルトランスフォーメーション)です。
最新ツールの活用だけでは不十分
経済産業省の定義を借りると、DXとは「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基にした製品やサービス、ビジネスモデルの変革」を実現すること。既にそのためのさまざまなITツールやプラットフォームが登場しています。
例えばWeb接客ツールもそのひとつ。従来、Webサイトでは店舗のように接客することはできませんでしたが、このツールを使えば自社サイト訪問者にチャット形式で商品提案やクーポン提供、問い合わせ対応などを行うことができます。売上アップやCX(顧客体験)向上といった効果が期待できます。
顧客視点のマーケティングを実施する上で効果的なのがDMP(データ・マネジメント・プラットフォーム)です。ユーザーの自社サイト上での行動履歴だけでなく、他社サイトへのアクセス履歴、オフラインで獲得した会員情報など様々なデータを統合し、ユーザーの属性やニーズにマッチした広告を配信することができます。
B to Bマーケティングの代表的なITツールがMA(マーケティングオートメーション)ツールです。商談の創出を目的とした見込み客の育成(商品・サービスの認知・理解促進~エンゲージメント強化)を自動化するツールで、見込み客一人ひとりの検討レベルに応じて最適なタイミングで最適なコンテンツなどを届けることができます。基本的にアプローチできる対象は自社の保有する見込み客リストか自社サイト上で登録したユーザーに限られますが、中には自社サイトを訪問しただけの匿名ユーザーに対してアプローチできるツールもあります。
以上はいずれも革命的なツールであることは間違いありませんし、今後もテクノロジーの発展とともに新たなツールが続々と登場してくるでしょう。ただし注意も必要です。当然ながら、これらのツールを導入したからといって必ずしもマーケティングの成功に結び付くわけではないからです。例えばMAツール。確かに見込み客の顧客化という面で優れた機能を持つツールですが、前提として十分な数の見込み客を確保していなければ、売上にインパクトを与えるほどの成果は見込めません。
ちなみにMAツールがB to Bで効果を発揮する見込み客の目安は、1万件以上もしくは毎月平均数百件の獲得と言われています。言うまでもなく、これだけの数の見込み客を獲得するためには、よほど企業やサービスの認知度が高くない限り、相当「質の高い」集客用コンテンツが必要です。
とはいえ考えてみれば、どんなに営業マンのアプローチが顧客の需要期とマッチしていても営業マンや商品の質が良くなければ売れませんし、どんなに自社のサービスが必要な人に向けて広告を打ったところで広告内容が悪ければ興味を惹くことができないのは当然です。つまりデジタルマーケティングにおいては、上記のようなツールを使って顧客へのアプローチを改善することも大切ですが、それが成果に結びつくかどうかはコンテンツやメッセージの「質」次第というわけです。
では、そのために何をすべきなのでしょうか? 次回最適な手法を紹介します。