RPAで「売れる仕組み」を作る
マーケティングDX最前線2021<後半>
ルーティンワークは徹底的に自動化せよ
どんなに最新のツールを使って最適なターゲット層に最適なタイミングでアプローチを重ねても、肝心のコンテンツの「質」が悪ければ効果は期待できません。ちなみに、ここで言うコンテンツとは、広告やブログ、SNSの投稿、メルマガ、ニュースレター、ランディングページ、ホームページ、オウンドメディアなど、集客・販売に関わるあらゆるメディアを含みます。問題は、これらのコンテンツを「高品質(=訴求力が高い、拡散力があるなど)」で作成できるツールが存在しないということです(簡単かつスピーディに作れるだけのツールならありますが)。
確かにGoogle広告には、AIによる広告テキスト提案機能が実装されています。しかし、人間が作成した広告文に比べて爆発的に効果が上がったという事例を耳にしたことはないですし、そもそも参入ハードルの低さゆえに競合が多く、費用対効果が芳しくないという課題があります。コンテンツマーケティングの流行で注目を集めていたオウンドメディアに関しても同様の状況で、資料ダウンロードなどのコンバージョンに結びつくほど訴求力の高い内容を作成するためには相当の手間が必要です。そうです、質の高いコンテンツを作るには、時間がかかるのです。
このような状況で有効なITツールがRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)です。といってもRPAは、コンテンツ作成ツールでも、マーケティング自動化ツールでもありません。パソコンでの入力作業や資料作成、メール送信、Web検索などを、ソフトウェアロボットに置き換えて自動化するツールです。つまり、既存のルーティンワークをRPAで徹底的に自動化し、クリエイティブな仕事に注力する時間を確保するというわけです。
とりわけマーケティング部門の業務で手間と時間を要するのが、データ集計やリサーチ、レポーティング作業でしょう。作業量の多さが大きな要因ですが、ミスや漏れがあると正しい効果測定・分析ができなくなるというプレッシャーもあります。最終的なアウトプットを間違えれば目も当てられません。そこでRPAを使えば、以下の作業を自動化することができます。
Web広告レポート作成
Google広告、Yahoo!リスティング広告、SNS広告など、運用型広告のパフォーマンスレポートを必要な時に必要な形式で作成できます。フォーマットもグラフ形式も自由に設定でき、バナー広告のレポートの場合はバナー画像も貼り付け可能です。数種類の広告を運用している場合でも、データ抽出のためにそれぞれの広告管理画面にログインする必要はありません。計算などでヒューマンエラーを抑えられる点も魅力的です。
国内トップクラスのインターネット広告代理店でもクライアント向けレポート作成用にRPAを活用し、導入から2年弱で、月間約9000時間以上の業務時間削減を実現しています。
SNS投稿・口コミ収集
現代のマーケティング活動に欠かせないのがSNSです。規模や知名度に劣る企業でも、やり方次第で大企業に勝てるところが魅力。しかし、日業業務をこなしながら継続的に投稿を続けるのは想像以上に難しく、多くの企業が挫折しています。
RPAを使えば、事前にExcelにまとめておいた投稿内容を自動で指定日時に投稿することが可能です。自社商品に関する口コミ投稿をExcelにまとめるなど、Webサイト上の情報を集めて修正・加工を可能にするスクレイピングも、RPA活用して実現可能です。
アンケート・ユーザーボイスのデジタルデータ化
顧客視点のマーケティングを実施する上で、重要な資産となるのがアンケートやユーザーボイス(顧客の声)。紙に手書きという形式も一般的ですが、手書き文字をデジタルデータ化できるAI-OCRというITツールをRPAと連携すれば、読み取りから指定場所への保存まで自動化することができます。
DXの正しい考え方
RPAは前回紹介したMAツールとも連携可能です。例えばMAツールへの見込み客情報の登録や、見込み客リストを営業部門に渡す際のデータ抽出作業やレポート作成作業を自動でおこなえます。
以上のような、デジタルで対応できる業務は徹底的にデジタルに代替し、それによって生まれたリソースを「人」にしかできない業務へシフトさせることは、DXにおいて大切な考え方です。DXという言葉を「最新のITツールを利用すること」と勘違いしている人もいますが、ツールはあくまで手段に過ぎません。目的は企業の競争力向上です。そのためには広告文章をAIでブラッシュアップするよりも、手間をかけて紙のダイレクトメールを送った方が効果的なケースもあるはずです。
マーケティングの定義はいくつかありますが、要は「売れる仕組みを作ること」ではないでしょうか。そして多くのマーケターが忘れがちなのは、この「仕組み作り」には「自社の体制作り」も含まれているということです。前回もお伝えした通り、コロナ禍の現在、社会・市場・消費者すべてがダイナミックに変化しています。時間に追われて無理矢理ひねりだしたようなアイデアで生き残れるほど甘くはありません。RPAは、そのための「働き方改革ツール」なのです。
マーケティングにおけるDXは、同時に自社全体のDXを推進させる役割も担っています。DXの定義は「顧客や社会のニーズを基にした製品やサービス、ビジネスモデルの変革」。顧客や社会のニーズを理解するためにはマーケティングの思考と手法が欠かせません。「マーケティング部門こそDXの中心部門になるべきだ」という意見もあります。DXに失敗した企業の多くが、顧客ではなくITツールの方を向いてしまい、その実行検証(テスト)に終始して頓挫しているからです。それほど重要なマーケティングDX。ぜひ正しい考え方で取り組んでください。