RPAが変える人材サービス企業の働き方
人材サービス企業にDXのノウハウが必要な2つの理由<後半>
RPAを活用した社内DX事例
人材サービス企業にDXのノウハウが必要なもう一つの理由。それは、対クライアントではなく自社のため、自社の「働き方改革」を実現するためです。
もちろん全ての企業が該当するわけではないでしょうが、一般に人材サービス業界の仕事は激務で、出入りの激しい業界と言われています。実際に業務過多や人材不足解決のために社内DXを推進している企業も多く、求人広告事業・人材紹介事業などを展開しているディップ株式会社では、2018年より自社でDXをスタートし、2020年3月からの1年間では約11万時間の業務時間削減に成功しています。
といっても、「攻め」のDXに比べると社内DXについての情報は少なく、何から始めればよいかわからない方も多いでしょう。実はツールや手法は色々あるのですが、中でも汎用性が高く、専門的なITスキルも不要で、「DX最初の一歩」として導入しやすいのがRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)です。
RPAは、入力や資料作成、Web検索、メール送信などのパソコンでの定型作業をソフトウェア型ロボットに代行させて自動化できるITツールです。自動化以外にも人為的なミスを防げるメリットもあり、前回紹介した転職サイト「ビズリーチ」の『レジュメ検索トレンドランキング2020』では、「DX」と一緒に検索されたキーワードとして1位に輝くなど、現在注目を集めています。
例えば既にRPAを導入している人材サービス企業では、以下のような人材スカウト業務における一連の業務を自動化させています。
・新規登録者開拓のための求人情報のWeb掲載
・Webでの企業求人情報クローリング(巡回)とExcelでのリスト化
・登録者情報の基幹システムへの登録
・登録者への打診メール、スカウトメール、フォローメール送信
もちろん法人営業への活用も可能です。ある大手人材紹介会社では、Webのニュースサイトを巡回し、資金調達などに関する企業の情報を収集して営業アタックリストを作成するというそれまで営業担当者が行っていた作業を完全自動化し、月間で一人当たり約80時間も業務時間を削減しています。
DXへの取り組みが企業の存在意義になる
とはいえ、このようにRPAを活用するメリットは、単に業務時間を短縮したり人手不足を解消したりすることだけではありません。より大きなメリットは、CA(キャリアアドバイザー)にせよRA(リクルーティングアドバイザー)にせよ、ルーティンワークによって阻まれていた本来すべき仕事に注力できること。前回紹介した経済産業省によるDXの定義を借りて言うなら、企業の「競争上の優位性を確保」するための業務の時間を生み出せることなのです
CAなら、メール自動化によって担当者個人の都合に関係なくスピーディーに登録者にアプローチできますし、他社以上に寄り添ってフォローすることもできるようになります。RAであれば、顧客企業とのコミュニケーションはもちろんのこと、業界研究などにもこれまで以上に時間を割けますし、そうすることで単に採用候補者のデータベースとしてではなく、顧客企業にとって欠かせない「採用パートナー」としてのポジションを獲得することも可能になります。要するに、RPAを端緒として社内DXを推進することによって、人材サービス企業の最重要ミッションである「マッチング件数の増加」と「マッチング精度の向上」につながる業務に専念できるようになるということです。
もちろん余剰時間を活用して、前回紹介した他社事例のような新事業に取り組むのも良いでしょう。今回冒頭で触れたディップ株式会社も、自社でのRPA活用経験を生かして顧客企業へのRPAコンサルティングサービスを始めています。ご存知の通り、新規事業を始めるにあたっては、自社での成功体験ほど営業やプレゼンにおいて説得力につながるものはありません。
独立行政法人情報処理推進機構(IPA)の調査では、2020年10月時点で9割以上の企業がDXに未着手か、散発的な実施にとどまっている状況であることが明らかになっています。しかし同年のDX人材需要の高まりを見ると、今後DXに取り組む企業が増えていくことは間違いありませんし、2021年4月より施行される「DX投資促進税制」もその追い風になることでしょう。
そもそも経済産業省が『DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~』で提言していることからもわかるように、DX推進企業とDX人材を増やすことは国にとっての緊急課題です。こうした課題解決の力となり、日本の未来に貢献できるかどうかが、これからの各人材サービス企業の存在意義にも深く関わってくると言っても過言ではないはずです。