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経営改革促進

2021年9月13日

競合よりもWow!な顧客体験を提供できているか?

DXで顧客にWow!な体験を提供する<後半>

DXで顧客体験はこう変わる(続き)

前回に引き続き、DXによる顧客体験の変革事例を見ていきましょう。

女性用下着を製造・販売するワコールホールディングス(HD)は、AIとビッグデータ、3Dスキャナーを活用し、来店客が販売員に体を触れられことなく全身を採寸できるサービスを展開しています。

3Dスキャナーでの採寸に要する時間はわずか5秒。そこで計測したサイズや形状と、同社がメーカーとして蓄積してきた女性の体形データをもとに、AIタブレットが最適な下着をレコメンドする仕組みです。採寸の際の着替えやコミュニケーションに抵抗感を持つ来店客が多いこと、またファストファッションなどの低価格な下着が市場を席捲していることから、若年層の顧客獲得を目的とした取り組みだったようですが、これまで百貨店の下着売り場に来ることのなかった客層の利用も増えているそうです。

AIと言えば、2021年1月、TOTOがAIで健康を管理する「ウェルネストイレ」の開発を発表しています。トイレを使用するごとに、皮膚の血流や尿・大便の臭いのデータを収集。健康状態を分析し、食事などに関するアドバイスをスマートフォンの専用アプリに送信してくれるという優れものです。実用化にはまだしばらく時間がかかるそうですが、完成すればトイレや排泄という言葉の意味さえ変えてしまうほどのインパクトをもたらすのではないでしょうか。

このようなモノとインターネットをつなぐ仕組みをIoT(Internet of Things:モノのインターネット)と呼び、これまで「モノ(製品)売り」をメインとしていた製造業が、消費者ニーズの変化にともない「コト(サービス)売り」へとビジネスモデルを転換するための一策として活用されています。

ブリヂストンの「TPP(トータルパッケージサービス)」もそのひとつ。月額定額料金で運送業やバス会社にセンサー付きのタイヤを提供、タイヤの摩耗状況を遠隔モニタリングして、最適なタイヤやメンテナンスを提案しています。「タイヤ売り」から「安全な走行を提供するサービス」へのビジネスモデル転換と言えるでしょう。

HowではなくWhatから考える

ここまでは先端テクノロジーを用いた事例を紹介してきましたが、もちろんそうした技術を使わなければ顧客体験を変革できないというわけではありません。

例えば、東京を中心に店舗展開しているカスタムサラダ専門店のクリスプ・サラダワークス。熱狂的なファンが多いことで有名ですが、積極的にDXに取り組み、2017年にいち早くモバイルオーダー(事前注文アプリ)を自社開発して導入したことでも知られています。

今回のコロナ禍でテイクアウト営業を余儀なくされた同社が取った対策は、なんとリモート会議でお馴染みのZoomを使ったオンライン接客。店頭に置いたタブレットと在宅勤務スタッフの自宅をつなぎ、Zoom画面上からテイクアウト客に「いらっしゃいませ。ご来店ありがとうございます」と声をかけていたのです。対面での接客がはばかられる状況を逆手に取った見事な施策ですが、何よりこうしたちょっとした心遣いや嬉しいサプライズが、競合との差を生み、ファンを増やすのでしょう。

前回の冒頭部分で、「MAやSFAのようなITツールを導入しただけではDXとは呼べない」と述べました。もちろんそれぞれのツールは素晴らしいものですし、導入を否定するつもりもありません。けれども、それらのツールを使って自社のビジネス(組織)をどのように変えるか、どのような体験(価値)を顧客に提供するかということを考えず、導入すること自体が目的となってしまっては本末転倒です。

ITツールはあくまで手段。クリスプ・サラダワークスの取り組みも、ツールありきではなく、日頃から顧客体験の向上について深く考えてきたからこそ生まれたもののはずです。

2017年に経済産業省が発表した『「DX 推進指標」とそのガイダンス』には、DX推進企業の課題として「顧客視点でどのような価値を創出するか、ビジョンが明確ではない」「What(何を)が語られておらず、How(どのように)から入ってしまっている」といったことが書かれています。

マーケティングでは、顧客の期待や予想を超える体験を「Wow体験」と呼びます。DXを進めながら上手くいっていない企業も、これから始めたいと考えている企業も、一度、「自社は競合よりも『Wow!』を提供できているか」「デジタル時代に自社の商品・サービスはどのような『Wow!』を提供できるのか」と考えてみると良いかもしれません。

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