いち早くDXに取り組んだ企業の特権とは?
“DXグランプリ2021企業”はどのようにしてDXの課題を克服したのか?<後半>
実践的なデジタルリテラシー習得のための取り組み
今年、「DXグランプリ2021」に選出されたSREホールディングス株式会社。同社が研修以外に、非IT人材の実践的なデジタルリテラシー習得のために実施している取り組み、それはずばり「実践」です。不動産部門の社員とデジタル人材が協働して自社不動産業務の業務変革に取り組んでいるのです。
その成功事例の一つが、AI(人工知能)不動産査定ツールの自社開発。従来、不動産の売買価格査定業務は人の手でおこなっており、過去の類似事例のリサーチなどを含めて1件につき数時間もの手間を要していたそうです。そこでAIを活用したツールを開発・導入したところ、なんと所要時間が1/10に短縮。その開発において、業務部門の従業員もAIの機械学習に必要な情報や知見のアイデアを提供したり、ブラッシュアップのために意見交換したりして参加していたということです。
もちろん、現場とデジタル・IT専門部門が協働してDXを推進している事例は、SREホールディングス以外にもたくさんあります。たとえば、経済産業省と東京証券取引所が共同で発表した『攻めのIT経営銘柄2019』でも、大手製薬会社であるエーザイ株式会社の現場発・組織横断型のDXの取り組みが紹介されています。
話を一般従業員のデジタルリテラシーに戻すと、何よりこうした実践の積み重ねこそがリテラシー向上の一番の近道であることは間違いないでしょうし、リテラシー向上の目的であるDXへの積極性やモチベーションの醸成といった面でも見事な取り組みと言えるでしょう。しかし、SREホールディングスが優れているのは、これだけではありません。同社はこうした取り組みを通して、もうひとつの大きな課題を打破したのです。
課題2:業界とDXの相性の悪さ
その課題というのが「業界とDXの相性の悪さ」です。不動産は一人当たりの購買頻度が極めて少ない商材。顧客との接点も多くありません。そのため、DXの要である顧客や購買に関するデータが溜まりづらく、しばしば他業界に比べてDXが遅れていると言われてきました。
その課題を打ち破ったのが、先述の社内業務変革で培った資産です。同社は不動産業界全体のDX推進を目的に、自社開発したシステムをクラウドサービス(SaaS)として、ノウハウやデータをコンサルティングサービスとして提供する、新しいビジネスモデルを創出したのです。
ビジネス化のそもそものきっかけは同業の不動産会社経営者からの依頼だったそうですが、次第に不動産仲介事業の売上を越えるまでに成長。現在では業界の枠を越え、大手金融機関にも販路を広げています。
まさに「DXはすべての業界に有効である」と言い切りたくなるような見事な取り組みですが、実はこのように自社のDXノウハウをサービス化して新事業を創出しているのはSREホールディングスだけではありません。とりわけ目にする機会が多いのは、DXの基盤ツールであるRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を導入した企業が、他社向けにRPA導入支援サービスを展開している事例です。
RPAとは、資料作成やメール送信、Web検索など、主にパソコンを使ったルーティンワークを自動化するためのITツール。たとえば、電機メーカーのコニカミノルタ株式会社は、2017年よりバックオフィス業務を始めとする200以上の業務にRPAを導入し、年間約20,000時間の業務時間削減を実現。この成功体験を活かして、導入時の体制構築から授業員教育まで、RPAを使いこなすためのコンサルティングサービスを展開し、顧客のDX推進を支援しています。
言うまでもなく、新たなビジネスモデルの創出はDXの目的でありメリットの一つ。しかしながら、SREホールディングスやコニカミノルタのように自社のDXノウハウをサービス化できるのは、いち早くDXに取り組んだ企業だけの特権と言えるでしょう。
以上、今回は2回に渡り、「一般従業員のデジタルリテラシー」「業界とDXの相性の悪さ」という2つの課題を克服してDXを成功させているSREホールディングス株式会社の取り組みを紹介してきました。2022年、あなたの会社がDXで飛躍するヒントかきっかけになれば幸いです。