コロナ禍による消費行動のデジタルシフトとDX先進企業の取り組み
新型コロナウイルスが招いた市場変化から企業のDXについて考える<前半>
消費者はもうアナログには戻れない
先進的な企業を中心に、デジタルトランスフォーメーション(以下:DX)が加速しています。
日本経済新聞社がまとめた2020年度の設備投資動向調査(2020年8月10日発表)によると、企業のIT投資の計画額は前年度実績比15.8%アップと大幅に増加する見込み。全体の設備投資額が1.2%減であることを考えると、かなりの積極性を示す数値と言えるでしょう。
もちろんその最大の要因は、新型コロナウイルスの感染拡大に他なりません。何より政府による外出自粛とソーシャル・ディスタンスの要請が促した人々の消費行動の変化、そのあまりにも急激な「デジタルシフト」は、企業にとって見過ごすことはできないはずです。
デジタルシフトの中で特に目立つのが、ECの利用増加です。それもインターネットやスマートフォンに慣れている若年~ミドル層だけではありません。シニア層も含めた全世代で増えているという調査結果もあります。あのユニクロも、実店舗こそ他のアパレルメーカー同様に苦戦を強いられてはいるものの、国内EC部門に限れば、3-5月期の売上高は前年同期比47.7%と驚異的な伸びをみせています。
オンラインビデオコンテンツに対する注目度も、コロナ以前に比べて飛躍的に向上しています。特筆すべきは、エンターテイメント作品の視聴だけでなく、フィットネスや英会話など、これまで対面を前提としていたサービスのオンライン利用も増えていること。2019年12月と2020年5月のオンラインビデオコンテンツの視聴時間を比較すると、一日の平均視聴時間が約6倍増えたという調査結果もあるほどです。
通常は十年単位で移り変わる消費行動を、わずか数カ月で激変させたコロナ禍。しかし、近い将来コロナが完全終息したとしても、この流れが止まることはありえないでしょう。一度デジタルの利便性や効率性を実感した消費者が、ふたたびアナログに戻ることは考えられないからです。
『DX銘柄2020』グランプリ企業に見るDXの本質
とはいえ、もともと日本は、世界どころかアジアの中でもDX後進国。こうした消費者の変化に機敏に対応できている企業は、それほど多くはありません。いい加減、そうした状況に国もしびれを切らしたのか、2020年8月25日、経済産業省と東京証券取引所が「DX銘柄2020」と「DX注目企業2020」を発表しました。
いずれも先進的にDXを推進している企業を選定したものですが、「DX銘柄2020」はエントリーのあった上場企業535社が対象、「DX注目企業2020」は、DX銘柄に漏れた企業の中から総合的評価の高かった企業を選定したものです。
今回、グランプリを獲得したのは株式会社小松製作所とトラスコ中山株式会社。
建設機械などを扱う小松製作所は「施工のDX」を目指し、『スマートコンストラクション』事業を展開。IoT(モノのインターネット化)、ドローン、Webカメラ、オンライン会議システムなどを活用して、現場とオフィスをリアルタイムで接続し、施工の最適化および生産性、安全性を向上させるサービスを提供しています。DXのメリットである業務遠隔化や省人化を活かした取り組みと言えるでしょう。
一方のトラスコ中山は、200万点以上の工具を扱うプロユースの機械工具専門商社。ERP(基幹系情報)システムを刷新し、サプライチェーン全体をオンラインで連携することで、一日に5万件を超える見積対応の自動化や、「富山の置き薬」の工具版とも言える効率的かつユニークな卸しサービスを実現しています。
両社の事例でわかるように、DXの本質とは、単なる業務のデジタル化ではなく、デジタル技術によって新たなサービス・市場の創出や競争力強化につなげることです。今回は製造業、それもB to Bの事例のみになってしまいましたが、次回はコロナ禍でも好調を維持しているB to CのDX事例を紹介します。