生成AI戦争の国内状況と将来展望
生成AI戦争
~さまざまな生成AIの登場と競争~<後半>
前回は、生成AIの概略とトレンドや、生成系AIの種類、米国発の具体的な製品などについて解説しました。今回は、生成AI戦争の国内状況と将来展望について解説します。
生成AI戦争の国内状況
米国だけではなく、日本国内でも少し遅れてさまざまなベンダーが生成AIに取り組んでいます。ここでは、国内の代表的な取り組み事例について解説します。
ソフトバンク
ソフトバンクグループの孫正義会長兼社長は2023年のイベント「SoftBank World 2023」で「ソフトバンクを世界で最もAIを活用するグループにしたい」と力説しました。 また2024年5月には、経済産業省の「特定重要物資クラウドプログラムの供給確保計画」の認定を受けたと発表しました。内容は、ソフトバンクが進めるAI計算基盤の拡充で、今後ソフトバンクには最大で421億円が助成されます。ソフトバンクは約1500億円を設備投資し、2024~2025年度で国内の複数拠点にAI計算基盤を構築する予定とのことです。 2024年度内に同基盤を使って約3900億パラメーターの大規模言語モデル(LLM)構築を目指すほか、約1兆パラメーターのLLM構築も目指していくとしています。
※大規模言語モデル(LLM)は、大量のテキストデータを用いて学習・訓練され、言語タスクを高精度で処理する生成AIの言語モデルを指します。
NTT
NTTは独自開発した生成AIサービスを2024年3月に発表しました。NTTの生成AIは「tsuzumi」と呼ばれパラメーター数が70億パラメーターの「軽量版LLM」と、同6億パラメーターの「超軽量版LLM」の2つのモデルがあります。同社によると日本語性能のベンチマークは、軽量版はChatGPT-3.5を上回る性能で、学習にかかるコストは、ChatGPT-3に比べて25分の1程度とのことです。超軽量版LLMは専用GPUでも動作し、スマートフォンやスマートウオッチでの利用も見込んでいます。
tsuzumiは文字以外にも表やグラフの内容を読み取り回答することができ、今後は音声などを含めたマルチモーダルの学習を予定しています。
既にNTTグループ会社のコンタクトセンターでは実証済で、島田明社長は「tsuzumiの売り上げで2027年度に1000億円以上を達成したい」との目標を掲げています。
楽天グループ
楽天グループは2024年3月、生成AIの基盤となるLLMを開発・公開したと発表しました。日本語に最適化した処理能力を持つモデルで、無料で利用が可能です。日本語に強みを持ったLLMの開発競争は激化しており、各社は顧客企業の囲い込みを図っています。
楽天が開発したのは、パラメーター数が70億の「Rakuten AI 7B」と呼ばれるモデルで、フランスのスタートアップの「ミストラルAI」のモデルを基に日本語データを学習させて開発したものです。楽天は、これを足掛かりとし、今後は楽天の持つ巨大経済圏と相乗効果を出すサービスの提供を目指すとのことです。
生成AIの将来展望
生成AIの開発競争は今後も加速すると考えられ、いくつかの主要な展望を下記に挙げてみます。
性能の向上
現時点では生成AIモデルは出現したばかりで、今後も性能が向上することが見込まれます。GPUの高速化などに伴うLLMのパラメーター数の大規模化、モデルのアーキテクチャの改善、学習アルゴリズムの最適化などによって、性能が持続的に向上すると考えられます。
応用範囲と実用の拡大
生成AIはさまざまな分野で利用され始めていますが、今後は、医療、教育、エンターテインメントなど、さらにさまざまな領域に拡大すると考えられます。生成AIの活用が浸透し、企業が活用し始めると、競争が激化し新たなビジネスモデルや市場が形成される可能性があります。
倫理と規制の重要性の増加
生成AIの発展に伴い、倫理的な問題や技術的なリスクに対処するための規制がますます重要になります。偏見・差別、著作権侵害、プライバシー侵害、偽情報、セキュリティ侵害などに対処するための取り組みが求められ、これらの解決には、技術的な対策と倫理ガイドラインの策定が不可欠でしょう。
まとめ
生成AI戦争は、今後もますます激化していくことが予想されます。サービス提供者は、より高性能な生成AIを開発するためにしのぎを削り、技術革新のスピードが加速していくでしょう。
一方で、倫理的な問題や偏見と差別、セキュリティリスクなどの課題も解決していく必要があります。生成AIが健全な発展を遂げ、社会に貢献できる技術となるかどうかは、まさに目が離せない、といってよいでしょう。