企業がDXの必要性に気づいた2020年
【特集】「DX元年」2021年を前に、2020年のDXを振り返る<前半>
ニューノーマル時代におけるビジネスの打開策
激動の2020年もまもなく終わりを迎えようとしています。しかし一体、誰が昨年の12月時点で、今年一年がこのような年になると予想できたでしょうか。
1月末にはイギリスのEU離脱が、10月にはアメリカ大統領選挙を控え、何かが起こりそうな気配が漂ってはいました。借金バブルの反動などを理由に、世界経済の先行きを不安視する声が上がっていたのを覚えている方もいるでしょう。しかし、新たなウイルスが世界中に感染拡大し、それによってオリンピックが中止になり、人々が自粛生活を余儀なくされる事態まで想定していた人は、皆無だったはずです。
その間、「ニューノーマル」なる言葉が生まれ、人々の生活スタイルや消費行動は一変しました。ビジネスにおいても、オフィスの在り方や働き方、ビジネスモデル、業務の進め方、人材採用の方法など、あらゆる面で従来のやり方に対する見直しが進んでいます。というよりも、未だほとんどの企業が暗中模索状態と言ったほうが正確かもしれません。そしてそうした状況の改善策、あるいは打開策として注目を集めたのが、デジタルトランスフォーメーション(以下:DX)です。
ビジネス誌で特集が組まれるだけでなく、Twitterで「#これもDX」というハッシュタグが登場するなど、その盛り上がりは凄まじく、ある種バズワード化した感さえありました。とはいえ、この現象を一過性のブームと捉えるのは見当違いでしょう。ビジネスにおけるDXとは、デジタル技術を活用してビジネスや働き方を根底から変革し、競争上の優位性を確保するための取り組みのこと。必然的に業務の自動化・脱属人化をともなうため、コロナ禍でのビジネスや働き方と相性が良いことは明らかだからです。
ただし、DXという考え方自体はそれほど新しいものではありません。経済産業省が「DX推進ガイドライン」を発表し、企業に推進を呼びかけたのは2018年。にもかかわらず一部の先進的な企業を除くと、その歩みは遅々として進んでいませんでした。しかし、そうした企業さえも否応なくDXの重要性・必要性に気づかされたのが、今年2020年だったのです。
2020年のDX事例①
DXが単なるバズワードではなく、これからの時代の経営課題であることは、以前からDXを推進していた企業が、このコロナ禍でも圧倒的な強さを見せていることが証明しています。
例えば、世界的に有名なスポーツメーカーであるナイキ。軒並みスポーツイベントが中止された今年6~8月の四半期売上高も、前年とほぼ変わらない業績で話題を呼びましたが、その業績を支えたのが前年比売上83%増を達成したD2Cビジネスです。
D2Cとは「Direct to Consumer」の略で、自社で企画・製造した製品を、流通業者を通さず、ECサイトやアプリなど自社デジタルメディアで直接消費者に販売するビジネスモデルを指します。卸売りとは違い、販売や顧客エンゲージメントの手綱を自社で握れること、デジタルの特性を生かした緻密なデータドリブンマーケティングを実現できることなどがメリットです。
2017年頃から本格的にDXをスタートさせたナイキは、2019年にAmazon、2020年にはザッポスなど大手リテールパートナーとの関係を断ち切り、卸売りから自社アプリを活用したD2Cへと販売戦略の転換を進めてきました。
アプリでは商品情報だけでなく、トップアスリートによるトレーニングアドバイスなど様々なコンテンツを、ユーザーの興味関心やアクティビティ(行動履歴)に応じて配信。エンゲージメントを高めつつ、最適なタイミングで商品をレコメンドしています。
大手電気機器メーカーのオムロン株式会社も、部品・機器の卸売りからデジタルデータを活用した継続課金型サービスの提供へと、ビジネスモデルの転換を図っています。
今年1月には、東京・品川に顧客企業の工場を再現する施設を開設。IoTセンサーやロボットから収集したデータを分析し、コスト削減や自動化によるスピード向上などの改善策を提案する狙いです。こうした、いわゆる「モノ」売りから「コト」売りへの事業転換は特にB to Cの領域で注目されてきましたが、DXの普及にともない、今後はB to Bでも増えることが予想されます。
次回も2020年に注目を集めた企業のDXを紹介しつつ、2021年のDXの展望を紹介します。