購買・調達部門におけるDXの現状と問題点
DXで変わる購買・調達部門 ——コストセンターからプロフィットセンターへ——<前半>
購買・調達部門は本当に「コストセンター」か
購買・調達部門は、長らく「コストセンター」あるいは「間接部門」「バックオフィス」などと呼ばれてきました。極言すると、先鋒部隊として最前線で戦う営業やマーケティングとは違い、直接利益を生まない後方部隊というわけです。実際、そう呼ばれることに少しも疑問を抱かず、日々業務に励んでいる担当者も多いでしょう。しかし、そもそもそれは本当に正しい認識なのでしょうか。
例えば、スティーブ・ジョブズ亡き後、AppleのCEOとして同社を米国初の時価総額1兆ドル超え企業にまで成長させたティム・クック氏。彼は元CPO(Chief Procurement Officer:最高調達責任者)、つまり購買・調達分野の出身です。
他にもゼネラルモーターズ社の会長兼CEOのメアリー・バーラ氏や、2019年12月から日産自動車の社長兼CEOを務める内田誠氏も、購買・調達畑でキャリアを積んできたことが知られています。
このように、購買・調達出身者が世界の名だたる大企業のリーダーとして活躍する姿を目にすると、従来の購買・調達部門に対するイメージは一変します。コストダウンが至上命題の後方部隊という位置づけにおさまらない、もっと大きなポテンシャルを感じるのです。
もちろん、VUCA(変動性、不確実性、複雑性、曖昧性)時代と呼ばれ、さらに新型コロナウイルスのパンデミックがその状況を加速している現在、コスト削減は企業にとって重要課題であり、その解決手段として購買・調達業務におけるコスト見直しは有効策の一つではあるでしょう。しかし、単なるコスト削減をいくら積み重ねても、本当の意味で企業の成長や競争力強化につながるとは考えられません。
以前、大企業での勤務経験も豊富な調達担当者が次のように語るのを聞いたことがあります。
「高度成長期ならいざ知らず、少なくともこれからの購買・調達部門に求められるのは、『必要なモノをより安く』仕入れることではない。『良いモノをより安く、かつ継続的に』仕入れることである」と。
つまり、コストダウンひとつとっても、近視眼的ではなく、中長期的かつ戦略的な購買・調達業務が必要だということです。
単一業務のデジタル化では意味がない
サプライヤーに値下げ要求する、もしくはボリュームディスカウントを狙う。従来の購買・調達部門における価格交渉は、基本的にはこの2つの方法が一般的でした。しかし、このような一時しのぎ的なやり方では、仮に「良いモノをより安く」仕入れることはできても、それを「継続的に」続けるのは難しいでしょう。
では、これからの購買・調達部門に求められるのはどのようなアプローチなのでしょうか。
その一つは、過去の見積りデータを蓄積し、詳細に分析し、その結果に基づいてサプライヤー選定や価格交渉を行うという手法です。目的は、部品や製品ごとに最適な価格で仕入れること、そして技術力など価格以外の能力も考慮して最適な業者を選定できるようになること。もちろん、すべての条件を満たす1社が見つかれば、今まで以上のボリュームディスカウントも期待できるでしょう。
社内で見積り履歴を集約化できれば、担当者や拠点によって同じスペックの商品を異なる価格で仕入れるなんてことは起こりませんし、サプライヤーとの関係性を、外注や下請けではなく、自社のビジネスを加速させる戦略的パートナーに変えるという意図もあります。
そして、こうした手法に欠かせないのが、ITツールを活用した購買・調達部門のデジタル・トランスフォーメーション(以下:DX)です。DXとは企業の競争優位性を高めるために、デジタル技術を活用してビジネスモデルや働き方を変革すること。購買・調達分野で言うと、従来の紙ベースのやりとりや属人化した業務プロセスを、デジタルで一気にアップデートさせるイメージです。
とは言うものの、他部門に比べると購買・調達専用のITツール自体まだまだ少ないのが現状です。例えば、これまで電話やFAXで行ってきたサプライヤーとのやり取りをチャットで行えるツールや、製造業の見積査定に特化したクラウドサービスなどは登場していますが、まだまだ単一業務の効率化レベルにとどまっていると言わざるを得ません。
DXの目的はプロセス全体の変革を図ること。購買・調達分野においては、要求部門からの依頼に対する購買計画の立案に始まり、見積もりや価格交渉、発注管理、納入・検収、支払管理など、Sourcing(ソーシング)だけでなくPurchasing(パーチェシング)も含めたプロセス全体の業務効率化や生産性向上を目指すべきです。次回の記事で、そのために有効なITツール選定について紹介します。