学校の働き方改革を推進するAI-OCRとRPA
今、学校DXで解決すべき2つの課題とは?<後半>
自動化で作業時間を大幅削減
教員志願者の減少が止まりません。特に深刻なのが公立の小中学校で、朝日新聞の記事によると2012年度には約12万2千人だった志願者も、2019年度は約9万8千人に減少。長時間労働など、いわゆる「ブラック職場」のイメージが定着してしまったのが大きな要因と見られています。
実際、文部科学省の『2016年度教員勤務実態調査』では、公立小学校で3割強、公立中学校では6割近くの教員が、過労死ラインを超える月80時間以上の残業を強いられていることが明らかになっています。
長時間労働と一口に言っても、業界の慣習や現場のマネジメント力など様々な事情が絡み合って引き起こされたものであり、抜本的な解決は容易ではないでしょう。しかし、DXの基盤となるITツールを使えば、少なくともこれまで業務に費やしていた時間を大幅に削減することはできます。
例えば先述の文部科学省の調査によると、小中学校教員の残業・持ち帰り業務で最も作業時間が長いのがテスト採点を含む成績処理。このような作業を一気に時短できるのがAI-OCRを活用したデジタル採点システムです。AI-OCR(オプティカル・キャラクター・リーダー)とはAIを用いた光学的文字認識ソフトウェアで、紙資料の手書き文字も高精度で読み取り、自動でデジタルデータ化することができます。
答案用紙を読み込めば、タブレットやパソコン上で設問ごとに採点できるので効率的。採点ミスも減りますし、点数計算や入力・集計の手間も不要です。兵庫県ではすでに県内の全県立高校147校と小中学校99校にこの採点システムを導入しており、教員の方々から「採点ミスをしにくい、採点時間が半減した」という好評の声が挙がっているそうです。他にもAI-OCRは、入学願書受付、学校評価アンケートのデジタルデータ化などにも活用されています。
もうひとつ、学校の働き方改革に効果的なのITツールがRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)です。RPAはデータ入力や資料作成、メール送信など、パソコンでの定型作業を自動化できるソフトウェアロボット。事務作業と親和性が高く、教員と同じく長時間労働が問題視されている、大学などの学校事務職員の働き方改革を目的としても活用されています。
RPAを全学規模で導入しているのが早稲田大学です。当初の目的は、約100ヶ所以上に分散していた支払請求伝票を集約化すること。紙への起票から担当者による内容チェック、基幹システムへのデータ登録、といった一連の作業をすべてデジタル化・自動化するシステムを構築し、RPA導入前後で1件あたりの処理時間が11分削減、全体では年間約40,000時間もの余剰時間を創出したそうです。
RPAは他にも、保護者向けメール送信、寄付・募金者の登録(入金処理・領収書作成・名簿作成)、時間外労働時間の集計などの自動化に活用されています。
学校教育におけるDXの意義
以上のように、前回紹介したアプリなどとは異なり、教員や職員の働き方改革を推進できるのがDXの基盤ツールであるAI-OCRとRPAのメリットです。
とはいえDX本来の目的は、「データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革する」(経済産業省『DX推進ガイドライン』)こと。手段と目的を取り違えてDXに失敗する、というのは一般企業でよくある事例ですが、学校DXにおいても注意が必要です。もちろん長時間労働の是正は大前提ですが、せっかくAI-OCRやRPAを使って業務時間を削減しても、それによって生まれた時間で本来の仕事、つまり生徒たちへの価値提供に注力しなければ意味はありません。
例えばAI-OCRを搭載した採点システムの場合、集計機能をフル活用すれば生徒一人ひとりやクラス全体の得意分野と弱点が分かるので、これまで以上にきめ細やかな学習指導を行うことが可能です。
早稲田大学のRPA導入についても、単に職員の業務効率化ではなく、学生たちの教育や研究をより支援できる役割へのシフトを推進する狙いがあったようですし、また、大阪大学では、現場の事務職員から「企画業務の時間を増やしたい」という声が上がり、ルーティンワークへのRPAの導入を進めているそうです。
メディアからは「Society5.0に向けた人材育成を!」だの、「これからはSTEAM教育を!」だのと勇ましい掛け声が聞こえてきますが、目の前の課題も解決できないようでは、かつての『教育の情報化ビジョン(骨子)』の二の舞に終わることは目に見えています。
まずはコロナ禍に相応しい教育環境を整えて学習の遅れを取り戻すこと。そして生徒たちにより良い価値を提供できるよう教員や職員の働き方改革を推進すること。重大かつ喫緊でもあるこの2つの課題を解決することこそ、当面の学校DXの意義であり、成功への第一歩なのではないでしょうか。