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DX推進企業の事例で知る、「VOC(顧客の声)」活用の最前線

「顧客の声」から価値を生み出す!DX時代のVOC活用法<後半>

顧客接点の多様化や顧客体験(CX)への注目が高まるDX時代のビジネスにおいて、「VOC(Voice of Customer:顧客の声)」の重要性が飛躍的に増しています。今回の後半記事では、VOCを積極的に活用し、実際の成果に結び付けている国内DX推進企業の事例をご紹介します。

「忖度(そんたく)なし」の声を起点とした共創型VOC活用事例

総合ディスカウントストア『ドン・キホーテ』を運営する株式会社パン・パシフィック・インターナショナルホールディングスは、VOCを商品・サービス改善に活かすための仕組みとして、『マジボイス』というサービスを展開しています。

同サービスは、2023年11月にオリジナル電子マネー『majica(マジカ)』公式アプリ内の新機能としてリリース。ユーザーが商品や店舗サービスに対する評価・感想などを投稿できるサービスですが、注目すべきは、その“透明性の高さ”です。

マジボイス | 電子マネー majica/マジカ【公式サイト】

マジボイス | 電子マネー majica/マジカ【公式サイト】

自社メディアで顧客の声やインタビューを紹介している企業はめずらしくありませんが、通常、掲載されているのはポジティブな声のみ。これに対し『マジボイス』では、運営側がユーザーに“忖度のない”率直な意見を求め、マイナス評価や厳しい指摘も包み隠さず公開している点が大きな特長です。

たとえば『正直レビュー』というコンテンツでは、プライベートブランド(PB)やメーカー商品を含む店頭販売商品を対象に、「いいよ!」「ビミョー」の2択で評価を受け付けており、「ビミョー」が多数を占める商品でも、その評価の内訳をそのまま表示しています。また、商品や店舗サービスへの感想や要望を自由に書き込める掲示板にも、好意的な声から辛辣なコメントまで、さまざまな意見が投稿されています。

ユーザーからの反響は大きく、サービス開始から10カ月弱で、商品評価・コメント含む投稿件数は100万件を突破。しかし、「顧客最優先主義」を掲げる同社は、声を集めるだけでは終わりません。『マジボイス実現委員会』というチームを立ち上げ、寄せられた意見をもとにした商品・サービスの改善プロジェクトをスタート。社内を巻き込んでのプロジェクトの進捗や成果は、アプリ及び専用Webサイトで公開されています。

マジボイス実現委員会|株式会社パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス


参照:みんなの声で、ぜんぶが変わる!? majicaアプリの「マジボイス」サービス開始!|株式会社パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス

参照:サービス開始後7カ月で商品評価・コメント件数併せて62万件! majica アプリのサービス『マジボイス』 お客さまのダメ出しで改善した商品が発売中|株式会社パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス

膨大なVOCを活かす組織横断的な仕組み構築事例

株式会社みずほフィナンシャルグループは、VOCを全行(全社)で活用するための先進的な仕組みを構築し、サービスの改善と顧客体験の向上に取り組んでいます。

同社には、アンケートやコンタクトセンターなど多岐にわたるチャネルを通じて、年間515万件を超える顧客の声が寄せられていました。しかし、特定の部署が個別に分析・活用するにとどまり、部署を超えた共有が困難という課題を抱えていました。

そこで同社は、『行内外の声・組織横断革新モデル』と呼ばれる多様な行内外の声を収集・分析・活用する枠組を構築。VOCツールによって大量の声データを一元的に集約し、リアルタイムで可視化・共有できる環境を実現したのです。

加えて、定期的に部長レイヤーが出席する「お客さまの声対応推進会議」を設けるなど、VOCを起点に継続的な改善対応をおこなうための部門横断型の体制も整備。こうした一連の取り組みによって、個人向けインターネットバンキング『みずほダイレクトアプリ』のiOSストア評価が業界最高水準まで向上したほか、口座開設数が前年同期比で2割増加するなど、目に見える成果を上げています。

また同社は、店舗・オンライン問わず、顧客一人ひとりに対して最適なコミュニケーションをおこなう『ハイパー・パーソナライズド・マーケティング』に力を入れており、その精度を高めるうえでも、この組織横断的なVOC活用の仕組みが活用されています。

参照:行内外の声・組織横断革新モデルが「2023 CRMベストプラクティス賞」「大星賞」をダブル受賞|株式みずほファイナンシャルグループ

参照:Google Cloudを活用した〈みずほ〉の新たな取り組み。「ハイパー・パーソナライズド・マーケティング」が叶える心地よい顧客体験とは。|株式会社みずほファイナンシャルグループ

「1件の声」をブランドイメージ向上につなげたVOC活用事例

味の素冷凍食品株式会社は、SNSで見つけた自社製品へのネガティブな声に真摯に対応することで、ブランドイメージの向上につなげています。

発端は2023年5月、担当者がSNSで「味の素の冷凍ギョーザがフライパンに張りついた」という投稿を発見したことでした。同商品は、“誰でも手軽にキレイに焼ける”ことを売りにしていたギョーザ。企業として責任を持って向き合うべく、公式SNSアカウントから投稿者及び同様の経験をしたユーザーに向けて、フライパンの提供を呼びかけました。すると、全国から3,520個ものフライパンが届いたのです。

こうしたユーザーの期待に応える形で立ち上げられたのが、『冷凍餃子フライパンチャレンジ』というプロジェクトです。

「冷凍餃子フライパンチャレンジ」プロジェクトサイト|味の素冷凍食品株式会社

「冷凍餃子フライパンチャレンジ」プロジェクトサイト|味の素冷凍食品株式会社

届いたフライパンを使い、ユーザーの調理環境の実態把握や張りつきの原因分析などの研究・検証をスタート。その成果として、2024年2月には張りつきを26%改善したリニューアルギョーザを発売、2025年5月には54%改善したギョーザを実現しています。

また、ギョーザの改良に貢献したフライパンは、大きさや厚み、重量、使い込み度などの情報とともにプロジェクト専用サイト上でアーカイブとして公開。とりわけ多く届いたアルミ製のフライパンは、老舗キッチン用品メーカーの協力を得て再資源化され、餃子専用フライパン『冷凍餃子フライパンチャレンジから生まれたフライパン』として商品化されました。

冷凍餃子フライパンチャレンジ「フライパン発売開始」|味の素冷凍食品株式会社公式チャンネルs(FFA AJINOMOTO OFFICIAL)

同社は、こうした改良やリサイクルのプロセスを、専用サイトやSNS、YouTubeなどで積極的にフィードバック。一通の顧客の声に誠実に対応したことで生まれたユーザーとの共創プロジェクトとしてSNSやメディアで話題になり、商品の認知拡大やブランドイメージ向上にもつながっています。

参照:『冷凍餃子フライパンチャレンジ』プロジェクトサイト公開|味の素冷凍食品株式会社

生成AIを活用したVOC分析の高度化事例

JR西日本お客様センターを運営する株式会社JR西日本カスタマーリレーションズでは、生成AIを活用し、VOC分析の高度化を推進しています。AIスタートアップ企業との連携により、2023年にはメール・電話による問い合わせ内容を要約する目的で生成AIを導入。さらに2024年には、生成AIを活用したVOC分析パッケージを開発・導入しています。

同センターの問い合わせ受付件数は、月間約7万件。以前は集計結果の信ぴょう性を担保するために多大な工数を要し、問い合わせ全件を分析対象にできないという課題がありました。また、集計に関してのルールは定めていたものの、担当者の経験やスキルへの依存度が高く、データの品質にばらつきが生じていた点も課題となっていました。

そこで、生成AIによる分析パッケージの導入を通じて、VOC集計業務の効率化とデータ品質の均質化を実現。たとえば、週報作成にかかる時間は従来の約2時間から30分程度へと大幅に短縮され、問い合わせ全件に対して、信ぴょう性の高い集計が可能になりました。分析業務においても、すべての問い合わせ内容をダッシュボード上で可視化できるようになり、さまざまな視点から顧客の声を分析・活用できる環境が整っています。

参照:JR西日本カスタマーリレーションズとELYZA、 生成AIを活用したVoC分析パッケージを開発、実運用を開始|株式会社JR西日本カスタマーリレーションズ、る株式会社ELYZA

今回紹介した事例は、いずれもBtoCの商品・サービスに関連する取り組みでしたが、当然ながらBtoBビジネスでもVOCの活用は進んでいます。特にサブスクリプション型ビジネスのようにリテンション(顧客維持)が重視される分野においては、いかに効率よくVOCを収集・分析し、迅速にフィードバックできるかが成果を左右すると言っても過言ではありません。

前半記事で述べた通り、VOCの収集・分析を効率化するには、IT・デジタルツールの活用が不可欠です。しかし、それはあくまで手段の一部に過ぎません。今回の事例が示すように、商品・サービスの開発や改善、顧客体験の向上といった“価値”の創出につなげるには、組織横断的な仕組みや体制づくりも求められます。

その土台となるのが、VOCを企業の“資産”のひとつとして捉えるマインドセットです。こうした意識を、経営層から現場に至るまで組織全体に根付かせることが、何よりDX時代にVOCを最大限に活かす鍵となるはずです。

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