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経営改革促進

2024年3月11日

社員が実現したくなる「DXビジョン」の作り方と活用事例

DXを推進するうえで重要な「DXビジョン」とは<後半>

DXビジョン作成のポイント

前回述べたように、DXビジョンとは「今以上にデジタルが浸透した未来(5年後・10年後あるいは20年後)の世界で、どのように顧客や社会に価値を提供し、それを持続的な企業価値向上につなげていくか」を明文化したもの指します。

DXビジョンの作り方に決まりはありませんが、出来れば最初に取り組んでおきたいのが、「今のままでいると自社はどうなってしまうのか」という“危機感”の共有です。具体的には次のような整理・分析をおこないます。

・現在の自社のビジネス状況と経営環境についての整理
・デジタル化の進展が社会や自社に及ぼす影響(リスク・競争環境・ビジネス機会)の分析

そしてその上で、自社の強み(ユニークポイント)を見直し、将来のデジタルシフトが進んだ社会で「どのような企業でありたいか」「IT・デジタルを活用して顧客や社会にどのような価値を生み出すのか」を考えていきます。既に経営ビジョンや中長期経営計画で目指している未来像があれば、それを実現するためにIT・デジタルを活用して取り組むべきことを挙げていくのも良いでしょう。

もしかすると、ビジョンはCMのキャッチコピーのように見栄えの良いものにしないといけない、と思っている方がいるかもしれませんが、決してそんなことはありません。DXビジョンで重要なのは、見栄えの良し悪しではなく、従業員や協力会社に「本気で実現しよう」と思ってもらえるかどうか。むしろ、いかにも外部コンサルティングに丸投げして作ったような、綺麗な言葉を並べただけの抽象的なビジョンでは、誰も本気で実現しようとは思わないでしょう。

ステークホルダーに本気になってもらうためには、何より「共感」を喚起するビジョンであることが必要です。ポイントとしては、数値目標のような定量的な側面よりも定性的な意義、例えばワクワクするような夢のある要素や社会課題の解決に繋がる要素を入れることなどが挙げられます。

もう一つ欠かせないのが、ビジョン策定における経営者のコミットです。経済産業省が『デジタルガバナンスコード2.0(2022年)』という資料で「経営者が自身の言葉でそのビジョンの実現を社内外のステークホルダーに発信し、コミット」することを推奨しているように、経営者はDXのリーダーとして、ビジョンが「絵に描いた餅」にならないよう社内外に浸透させる取り組みを求められます。にもかかわらず、ビジョン自体に経営者の意思や哲学が反映されていなければ、説得力に欠けてしまいます。

では、実際に他社はどのようにビジョンをDXの推進に活用しているのでしょうか。続いて、ある中堅・中小規模の事例を紹介します。

DXビジョンでDXを加速させた企業事例

●“壁”を突破したきっかけはDXビジョン

1933年創業の醸造食品製造機械メーカー、株式会社フジワラテクノアート(岡山市)。同社のDXビジョンは『醸造を原点に、世界で微生物インダストリーを共創する企業』。「2050年に向けて、『微生物のチカラを高度に利用するものづくり』を様々なパートナーと共創し、心豊かな循環型社会に貢献する」という想いが込められています。

2018年にDXをスタートさせた同社は、2023年に『DXセレクション2023』(経済産業省)でグランプリを受賞。と聞くと、至極順調に進んできたように思えますが、実際は老舗企業でベテラン社員も多く、以前はDXとは程遠い環境だったそうです。しかし、そのような“壁”を突破し、DXを加速させる転換点となったのが、現・代表取締役副社長を中心に取り組んだDXビジョンの社内共有でした。

●DXビジョン共有のための工夫

ビジョンを共有させる上で大切にしたのは、デジタル化と同時並行でおこなうこと。「デジタル化だけ進めると、ただ大変なだけで何のためにやるのかが分からない」というのがその理由ですが、前半記事でDXのよくある失敗事例として取り上げた「手段の目的化」の防止策としても有効な取り組みと言えます。実際に、社員にも「目的はビジョン達成であり、DXは手段だ」と繰り返し伝えていたということです。

新しい挑戦に不安を抱えていたベテラン社員に対しては、DX推進委員会メンバーが何度でも丁寧に説明。上述のビジョンの文言も、ベテランが共感できるように工夫したそうです。そして、こうした取り組みがモチベーションアップと一体感の醸成に繋がり、「若手はデジタル化やシステム作りを担当し、ベテランはどんなナレッジを共有すべきかをアドバイスする」という流れも生まれ、DXが加速し始めたのです。

●ビジョン実現にはDXが必要

DXの取り組みでは、工数削減やミス削減、棚卸し作業時間の大幅な短縮といった業務効率化や、紙の使用量9割削減、情報セキュリティ強化などを実現。その結果、ビジョン実現に向けた新たな価値創造のための業務により時間を費やせるようになり、現在(2023年時点)はAIを活用して杜氏(とうじ)の麹づくりの技能伝承をサポートするシステムの開発を進めています。

リーダーとして同社のDXを推進してきた副社長いわく、ビジョンは「経営者の本気度が問われる」もの。そしてビジョン=理想と現実のギャップを埋めるためには「新たな挑戦や創造的な業務に時間を割けるような体制が必要」で、そのため「DXがなければビジョンは実現できない」と強く実感したそうです。

“DXに必要だからビジョンを作る”のではなく、“自社のビジョンを実現するために必要だからDXに取り組む”――このような意識の転換こそが、効果的なDXビジョンの作成、ひいてはDX成功のための最大のポイントかもしれません。

出典:中堅・中小企業のDX ビジョン共有で「壁」突破、DX推進の転換点に|経産省 METI Journal

出典:DX Selection2023|経済産業省

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