2021年、ついに本格的な「DX元年」が到来する
【特集】「DX元年」2021年を前に、2020年のDXを振り返る<後半>
2020年のDX事例②
2020年8月、経済産業省と東京証券取引所は共同で、DXに積極的に取り組む企業35社を「デジタルトランスフォーメーション銘柄2020」として発表しました。そのうちの一社が大日本印刷株式会社です。
印刷業界で圧倒的なシェアを誇る同社がDXを推進してきた理由は、「このままでは生き残っていけない」という危機感。印刷以外にも、物流をはじめ様々な分野でデジタルを活用したサービスを展開していますが、コロナ禍をきっかけに需要が膨らむオンライン診療もその一つです。
オンライン診療では患者がスマートフォンなどのカメラで撮影した画像を元に診察するのが一般的ですが、カメラの性能や撮影時の状況によって色が変わるため、正確な診断を下すのが難しいという課題がありました。そこで同社は今年6月に、印刷でおなじみのカラーチャート用紙を用いた「画像補正サービス」の提供を開始。カラーチャートの色を基準に、専用サーバーが画像の色調を実際の色に補正してくれる仕組みになっています。
この事例に限らずDXによるサービス展開は、業界が違っても、基幹事業で培った強みを生かしているところがポイントです。こうした点は、新たなビジネス創出に悩む企業の参考になるのではないでしょうか。
続いて「DX銘柄2020」企業ではありませんが、DXによって組織の仕組みを大きく変革しているのが、みずほファイナンシャルグループです。
DXの取り組みは2014年から。デジタル時代の到来とFinTech企業などの異業種参入を見据え、全社のIT基盤を刷新する巨大プロジェクトをスタートしました。二度に渡る完了時期の延期を経て、ついに2019年、それまで店舗単位で管理していた顧客情報の一元化を実現しました。今年からは、これまで営業店が担ってきた預金関連の処理や問い合わせ対応といった膨大な後方事務を事務センターに集約し、店舗スタッフはコア業務である資産運用などのコンサルティング業務に注力しているということです。
経営層の危機感不足とビジョンの欠如がDXを妨げる
以上2回に渡って、2020年の振り返りとDX推進事例を紹介してきました。最後に、現状の問題点と来年2021年に向けての展望を。
コロナ禍によるリモートワークの普及によって、紙文書やハンコの廃止を望む声が、官民問わず上がっています。また、ブラックボックス化した業務システムも、「見える化」「標準化」に向けた見直しの機運が高まっています。となると現在、DXにあたっての最大の障壁は、経営層の「危機感不足」と「ビジョンの欠如」かもしれません。
「危機感不足」については、そもそもDX以前の話ですので、ここで詳述する必要はないでしょう。前回紹介したオムロンの代表も「コロナで減った需要は簡単には戻らないだろう」と語っていますし、何よりこれだけ消費行動のデジタルシフトが進み、オンライン商談とリモートワークが一般化した現在、業種やB to C・B to Bを問わず、同じことを続けているだけでは、いずれ先細りしてゆくのは目に見えています。
一方の「ビジョンの欠如」は、DXの障壁であるだけでなく、DX失敗の定番要因の一つでもあります。繰り返しになりますが、DXとはデジタルテクノロジーによって組織やビジネスを根本から変えること。にもかかわらず、経営層の「AIを使って何かできないか」といった曖昧で近視眼的な指示のもと、現場がPoCを繰り返すだけで終わっている企業も多いのが実情です。
今回紹介した大日本印刷もみずほファイナンシャルグループも、ともにトップの強力なリーダーシップのもと、グループ横断型の推進組織を設置してDXを進めています。やはり全社を巻き込んで取り組むのがDXの理想の形。そのためには実現すべき未来像と、中・長期的な戦略の策定が欠かせません。
2020年はようやく企業がDXの必要性と重要性に気づいた一年。実際にDXに取り組む企業が増えると予想される2021年こそ、本当の意味で日本の「DX元年」と呼べる一年になるはずです。
規模感からどうしても大手企業の取り組みが目立ってしまいますが、中小企業でもRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)によってルーティンワークを自動化し、年間で数千時間の業務削減に成功している事例もみられます。DXの成功には、スモールスタートと継続的な試行錯誤が必須。競合に差をつけるには、早く始めること以上の策はありません。