エッジコンピューティングの事例と課題・将来展望
エッジコンピューティングとは
~メリット・事例などについて~<後半>
前回は、エッジコンピューティングの基本的な概念や仕組み、テクノロジー、メリットについて解説しました。今回は、事例、課題、および将来の展望について解説します。
エッジコンピューティングの事例
自動運転(自動車業界)
自動車の自動運転では、安全が最も優先されます。そのため、高速で移動している自動車では、高速なデータ通信と通信遅延のないデータの処理・やり取り・実行が求められます。
自動運転では、通信・処理の遅延は、交通事故に直結する致命的な要因となります。たとえば、とっさのブレーキを踏む判断が遅れた場合には自動車は数十メートルも進んでいることが想定されます。そのため、すべての判断をクラウドとの通信ではなく、多くの部分をエッジコンピューティングで行います。
加えて、道路状況や天候、交通渋滞状況、事故情報などのデータをクラウドでデータ共有します。今後は自動車間同士でのデータ通信も発達し、さらなるエッジコンピューティングが活用される分野となるでしょう。
AIカメラによる顧客分析(小売業界)
百貨店などの小売店舗にカメラを設置し、店舗内に設置するエッジサーバーに取り込み、そこで処理をするケースがあります。エッジサーバー内の解析エンジンがカメラ映像から人物を抽出し、人物の動き追跡します。解析エンジンでは、取り込んだカメラ映像や解析エンジンが途中作成するデータは破棄して、抽出した人物の座標データのみを保存しています。そのため、個人を特定するデータが残らないことが、特徴になります。
作成した人物の座標データは、クラウド上に集約し、クラウド上で複数カメラ間の座標データの連結を行い、人物動線としています。これにより、「店舗内の人の滞留状況」「時間帯別の店舗内の人の通過状況」などといった、人流分析を行うことができます。
また、これらの集約された情報はクラウド上にあるため、現場の各店舗からは別店舗を含めてWeb経由で人流解析結果を把握することができます。
製造ラインの画像判別(製造業界)
ある製造業ではエッジコンピューティングを利用して、生産ライン上の各部品の品質検査をリアルタイムで行うシステムを導入しました。具体的には画像AIをラインに導入することにより、不良品の一次検出をAIで判別し、最後に人の目で確認する方法です。これにより不良品の検出率が大幅に向上しました。また、このエッジコンピューティングによる分析結果をもとに、生産プロセスの改善も同時に行うことができ、ライン全体の生産効率が向上しました。
エッジコンピューティングの課題
一方で、エッジコンピューティングにはいくつかの課題も存在します。
リソースの制約
エッジデバイスやエッジサーバーは、通常、リソースが制限されます。エッジ側の環境はたとえば自動車内部であったりするので、高速・高性能なエッジデバイスの配置は限られます。そのため、高度な処理や大規模なデータ解析を行うことが難しい場合がありますが、今後テクノロジーの進化によって改善されていくでしょう。
セキュリティ上の懸念
エッジデバイスやエッジネットワークは、通常、強固なセキュリティ対策で守られているクラウドデータセンターよりも脆弱性があるといわれます。ハッカーによる自動運転への攻撃なども想定され、セキュリティの懸念が今後生じる可能性があります。
管理と運用が複雑
エッジコンピューティング環境は、多数のデバイスやサーバーで構成される場合があり、また配置も広範囲で、野外であったり、バッテリー・電源の課題があったりと、その管理と運用が複雑になることがあります。
エッジコンピューティングの将来展望
エッジコンピューティングは、今後ますます普及していくと予想されています。特に、生体認証などのセンサー系IoTの普及や5Gや今後の6G、生成AIなどを組み合わせて導入することにより、ますます重要性を増すと考えられています。
将来的には、エッジデバイスやエッジサーバーの性能向上、セキュリティの強化、管理の効率化など、さまざまなテクノロジーの進化により、エッジコンピューティングの利便性と普及が、予想よりも急速に拡大するでしょう。
まとめ
エッジコンピューティングは、データ処理と解析をユーザーやデバイスに近い場所で行う革新的なアーキテクチャです。ただし、まだその採用にはメリットと同時に課題も存在します。
しかし、将来的には特にエッジの部分はテクノロジーの進化により大きく進む可能性があり、エッジコンピューティングの利便性は急速に拡大・普及していくと考えられます。