自社でも「イノベーション」を起こせる理由
意外と知らない!? 「イノベーション」の正しい意味とは
「イノベーションを起こすためにDXを始めたい」と考えている企業は多いのではないでしょうか。もちろん、それは狙いとして間違っていません。よく言われている通り、IT・デジタル技術を活用して新たな価値創出を目指すDXは、イノベーションと極めて親和性の高い取り組みだからです。
ただ一方で、気になる点もあります。それは、ビジネスシーンで当たり前のように使われる言葉であるにもかかわらず、いまだに多くの人がイノベーションの意味を誤解していることです。
イノベーション=発明ではない
とりわけ典型的なのが、「イノベーションとは、ゼロから革新的な技術や製品・サービスを発明すること」、あるいは「飛び抜けた発想力を持つ一部の天才だけが実現できるもの」といった思い込みです。しかし、結論から言えば、どちらも正しくありません。
そもそも、20世紀初頭にイノベーションという概念を提唱した経済学者ヨーゼフ・シュンペーターによると、イノベーションの本質は「新結合」。つまり、既にある資源や技術を、これまでとは異なる形で組み合わせることによって新たな価値を創出することであり、いわゆるゼロイチ(0→1)の発明を意味するわけではないのです。
このようなイノベーションの考え方は、Apple創業者の一人であり、稀代のイノベーターとして知られるスティーブ・ジョブズの、「創造性とは物事をつなげることに過ぎない(Creativity is just connecting things. )」(※)という言葉とも通じるものがあるかもしれません。
※出典:Steve Jobs: The Next Insanely Great Thing|WIRED
実際、イノベーションの代表例として頻繁に取り上げられるAppleの『iPod』や『iPhone』も、純粋なゼロイチの発明ではありません。『iPod』にはソニーの『ウォークマン』、『iPhone』にはNTTドコモの『iモード』といった先行事例が、それぞれ存在していたからです。
例えば『iPod』の場合は、『ウォークマン』が生み出した「音楽を持ち歩く」という体験価値と、iTunesやインターネット配信による「PC上で手軽に楽曲を同期・購入できる仕組み」を組み合わせることで、新しい音楽との付き合い方を提示しました。しかも、その『ウォークマン』自体が、既存技術の組み合わせによって生まれたプロダクトであったことは、よく知られています。
イノベーションのさまざまな形
また、これも意外に思われるかもしれませんが、製品・サービスの「革新性」や「高機能性」もイノベーションの必須条件ではありません。同様に、イノベーションを起こせば一挙に莫大なシェアやリターンを得られる、といった「一発逆転」的な派手なイメージも、あくまで一部の事例を強調したものです。
例えば、「破壊的イノベーション」の提唱者であるハーバード・ビジネス・スクール教授のクレイトン・クリステンセン氏は、次のようなアプローチもイノベーションとして位置づけています。
・ローエンド型破壊的イノベーション
従来よりも機能を抑えた製品・サービスを安価で提供することで、低価格帯市場のシェアを獲得していくイノベーション(例:10分1000円のヘアカット専門店)
・持続的イノベーション
既存の顧客や市場のニーズに合わせて、製品・サービスの機能や品質を改善していくイノベーション(例:性能や機能を継続的に向上させるスマートフォン)
加えて、イノベーションの対象は技術や製品・サービスに限定されない点も重要です。先ほど紹介した経済学者のシュンペーターは、イノベーション=「新結合」の種類として次の5つを挙げています。
(1)新しい財貨(製品・サービス)の生産
(2)新しい生産方法の導入
(3)新しい販路の開拓
(4)原料あるいは半製品の新しい供給源の獲得
(5)新しい組織の実現
※シュムペーター『経済発展の理論(上)』、岩波書店、1977年、p183より一部改変
つまりイノベーションは、生産方法、市場、サプライチェーン、組織など、企業活動のさまざまな領域で生み出すことができるということです。例えば、トヨタ自動車株式会社の有名な『トヨタ式生産方式(TPS)』と『トヨタ式カイゼン』は、生産プロセスを抜本的に改革したプロセス・イノベーションの代表例として知られています。
ここまで見てきたように、「一部の天才が革新的な製品・サービスを発明して一挙にシェアを獲得する」という従来のイメージは、いわばイノベーションにまつわる“神話”のようなものに過ぎません。言い換えると、あらゆる企業がイノベーションを起こせる可能性を秘めていると言えるでしょう。
特に近年は、ISO 56000シリーズのようなイノベーション・マネジメントシステム(IMS)に関する国際規格も整備されており、先進的なDX推進企業では、「組織全体」でイノベーション創出に取り組む動きも目立っています。
後半記事では、そうした組織的な取り組みについて、実際の企業事例を挙げながら紹介していきます。















