早めのスタートが成功の鍵! IT・デジタルを活用したブランド体験向上策
「選ばれる企業」は何が違う? DX時代のブランディング新常識
前半記事では、ブランディングの本来の意味や取り組むメリット、そしてオンラインの顧客接点がブランド価値に与える影響について解説しました。後半の今回は、IT・デジタルを活用してオンライン上でのブランド体験を創出・向上させる代表的な手法と、DX推進企業の実践事例を紹介します。
専門家ポジションを確立する——オウンドメディア活用事例
オウンドメディアとは企業が自社で管理・運営するメディアのことで、ブログやWebサイト、SNSに加え、『YouTube』、『note』などのプラットフォームが利用されています。一般的には「コンテンツマーケティング」と呼ばれるマーケティング手法で活用されていますが、ブランディングにも大きな効果を発揮します。
特にBtoB商品・サービスのブランディングでは、特定のカテゴリーにおいて専門家としてのポジションを確立できることがメリットです。ターゲット層に役立つ情報を継続的に発信することで、課題が生じた際に「〇〇〇と言えば、あの会社」と真っ先に思い出してもらいやすくなります。
BtoBオウンドメディアの成功事例として知られているのが、サイボウズ株式会社のWebメディア『サイボウズ式』です。

画像出典:サイボウズ式|サイボウズ株式会社
「チームワークあふれる社会を創る」をパーパス(存在意義)に掲げ、法人向けにチームの業務効率化や情報共有の円滑化を支援するクラウド型グループウェアなどを開発・提供している同社。そのパーパスは『サイボウズ式』にも一貫して反映されており、「新しい価値を生み出すチームのメディア」というコンセプトで運営されています。
同メディアで注目したいのが、「継続力」と「コンテンツ力」です。まず継続力については、オウンドメディアという概念が今ほど一般的ではなかった2012年にスタートし、その後10年以上にわたって、チームワークや働き方といったテーマを中心に情報を発信し続けている点が挙げられます。
コンテンツに関しては、堅苦しくなりがちなテーマでも、親しみやすい切り口や語り口で思わず読み進めてしまう記事が多い点が特徴です。著名人や専門家へのインタビューなど、多くの読者の関心を引く記事も多く、「サイボウズ=チームワークに強い企業」というブランドイメージの形成・定着に大きく貢献しています。
細部へのこだわりが独自性を生む——UI・UX改善事例
UI(ユーザーインターフェース)とUX(ユーザーエクスペリエンス)は、アプリやWebサイトを含むデジタルサービスで広く使われている概念です。UIは画面のデザインやボタンの配置といったユーザーとサービスの接点を指し、UXはサービス利用を通じて得られる体験全体を意味します。
どちらも一見ブランディングとは無関係に思われるかもしれませんが、顧客接点における「迷わずに使える」「情報を見つけやすい」「購入や問い合わせまでスムーズに進める」といった体験は、ブランドへのポジティブな印象に直結する重要な要素になります。
ユーザーの声を起点に徹底したUI改善に取り組んでいるのが、株式会社みんなの銀行です。ふくおかフィナンシャルグループの子会社として設立された同社は、スマートフォン上で銀行取引が完結する日本初のデジタルバンクサービス『みんなの銀行』を提供。規制による縛りが厳しいために差別化が難しいとされる金融業界で、従来の銀行のイメージを覆すブランド体験を生み出しています。

画像出典:みんなの銀行|株式会社みんなの銀行
『みんなの銀行』の掲げるサービスコンセプトの一つが、「みんなの声がカタチになる」。その言葉通り、PV(閲覧)数や離脱率といった定量データだけでなく、実際のユーザーへのインタビューやユーザーに近い属性の社員を対象としたユーザビリティテストを重ね、日常的なUI改善に役立てています。
もう一つ注目したい取り組みが、一貫したブランド体験を提供するための「ブランドパーソナリティ」の設定です。ブランドパーソナリティとは、ブランドを一人の人間に見立てたときの人格を指し、同サービスではデザインからテキストの表現、漢字と仮名のバランスに至るまで、その人格に沿うように設計されています。顧客接点の細部までこだわり抜くことが、優れたブランド体験につながることを示す好例と言えるでしょう。
参照:入社1年で学んだ「ユーザーの声」の聴き方。みんなの銀行のUIを磨くユーザビリティテスト手法|みんなの銀行 公式note
提供価値をサービスで体現——AI・生成AI活用事例(1)
AI・生成AIは、これまで主に業務効率化や生産性向上の観点から注目されてきましたが、ブランド体験を創出・向上する手段としても活用が広がっています。
顧客への提供価値として「時間価値」(顧客の時間を創出すること)を掲げ、法人向けに機械部品などの製造・販売を手掛ける株式会社ミスミグループ本社。その価値を体験として提供し、ブランドの信頼につなげているのが、機械部品調達AIプラットフォーム『meviy(メビー)』というサービスです。

画像出典:meviy|株式会社ミスミグループ本社
従来、特注部品の調達業務は、紙図面の作成やFAXでの見積もり依頼といったアナログなプロセスが中心で、見積もりの回答や製作・納品にも多くの期間を要していました。『meviy』はこうした一連の工程をデジタル化し、大幅な時間短縮を実現します。
見積もり時には、顧客が3Dデータをアップロードするだけで、AIが価格・納期を瞬時に算出。発注決定後は、AIが機械を動かすプログラムを自動生成してすぐに製造に移るため、最短1日での出荷も可能です。これまでにかかっていた時間を90%以上削減できるケースもあり、まさに同社が掲げる「時間価値」を体現するサービスになっています。
個別対応でブランド体験を向上——AI・生成AI活用事例(2)
Webサイトやアプリでの問い合わせ対応の質も、ブランドの印象を大きく左右する要素です。現在、活用が広がっているのが、AI・生成AIを搭載したチャットボットです。
従来のチャットボットは機械的で無味乾燥な応答になってしまう点が課題でしたが、AI・生成AIチャットボットなら、ブランドイメージに合わせて言葉遣いやトーンを調整できるというメリットがあります。さらに、オリジナルのマスコットやキャラクターを活用することで、ブランドの個性をより印象付け事例も増えています。
アスクル株式会社では、BtoB通販サイト『ASKUL』のAIチャットボットに、同サービスのブランドカラーであるブルーから命名した『アオイくん』というキャラクターを導入しています。

画像出典:ASKUL|アスクル株式会社
『アオイくん』の特徴は、注文データと連携しているため、一般的な問い合わせだけでなく、領収書発行や配送日変更などの個別の手続きにも対応できること。また、性格や特技、クセなども細かく設定されており、簡単な雑談を楽しめる点もポイントです。機械的になりがちなやりとりにちょっとした親しみを添える存在として、ブランド体験の向上に貢献しています。
参照:お問合せAIチャットボット「アオイくん」に注文データを連携|アスクル株式会社
他にも生成AIは、ブランドのコンセプトやメッセージ、ロゴ、広告ビジュアルなどのクリエイティブ制作においても活用が進んでいます。近年では、ラグジュアリーブランドの『グッチ』が生成AIで作成したモデルを使ったビジュアルをSNSで公開し、大きな話題となりました。
ただし、クリエイティブに生成AIを活用する際は注意も必要です。生成AIは過去のデータをもとに最適解を導き出すのが得意な一方、無難で没個性的な仕上がりになってしまいがちだからです(描写の不自然さや独特の質感などに、違和感を示す声も少なくありません)。自社ならではの独自性を効果的に伝えるためには、人が担うべき領域とAIに委ねる領域を見極めることが重要になります。
今回紹介したように、IT・デジタルはブランド体験を創出・向上するための強力な手段であり、現代のブランディングに欠かせない存在です。とはいえ、どれほど高度な技術を導入しても、ブランドは一朝一夕に確立できるものではありません。
ブランディングは「選ばれる仕組み」「選ばれる理由」をつくること。そのためには地道な積み重ねが欠かせません。だからこそ、先送りせず、できるだけ早期に着手することが重要です。特にBtoBサービスをはじめ、本格的にブランディングに注力している企業が少ない領域であれば、先行者ほど独自のポジションを築きやすいという利点があります。
なお、今回は触れられませんでしたが、顧客とブランドの関係性強化につながる「ファン作り」施策のポイントや事例を知りたい方は、ぜひ以下の記事をご覧ください。















