DEXで経営・ビジネス・働き方はどう変わるのか
DEXで経営・ビジネス・働き方はどう変わる?
―「システムの管理」から「従業員体験の向上」の時代へ
前半では、DEX(Digital Employee Experience:デジタル従業員体験)の概要や、経営・ビジネスにもたらす価値について解説しました。
後半では、企業の具体的な取り組みを紹介するとともに、生成AIとの融合や導入時の課題、今後の展望から、DEXが企業や働き方をどう変えていくのかを探ります。
企業で進むDEX――取り組み事例
近年、DEXを活用して従業員の働く環境を改善する動きが本格化しています。特徴的なのは、IT環境を監視するだけでなく、従業員が感じる「遅い」「使いにくい」といった問題を可視化し、先回りした改善につなげている点です。
NTTデータ――国内約6万台へDEXを展開
NTTデータは、DEXプラットフォーム「Nexthink Infinity」を自社の国内約6万台の端末へ展開しています。端末やアプリケーションなどの状態を可視化し、IT上の問題の早期把握や原因究明に活用しています。
事前検証では、問い合わせ対応時間を最大30%削減したほか、利用されていないソフトウェアライセンスの把握によるコスト抑制などの効果も確認しています。さらに、自社で蓄積したノウハウをDEX導入・運用支援サービスとして顧客にも展開しています。
トヨタ――「問い合わせを待つIT」から先回り型へ
トヨタでもNTTデータと同様にDEXプラットフォームを活用したDEX改善をグローバルに進めています。公開事例では、大規模な従業員環境を対象に、端末やソフトウェアの状態を可視化し、従業員が問題を認識する前にIT部門が異常を把握・改善するプロアクティブな運用を目指しています。
トラブル発生後に問い合わせを受けて対応するのではなく、データから問題を先回りして発見する。DEXによって、社内ITサポートそのものを変えようとしている事例です。
日本でもDEX市場が本格化――導入環境が整い始める
日本では、実名・成果付きのDEX導入事例はまだ限られる一方、2025年以降は国内での事業展開が進み始めています。ハイブリッドワークやSaaSの拡大、IT人材不足などを背景に、DEXは一部の先進企業だけの取り組みから、デジタルワークプレイスを支える新たな基盤へと広がり始めています。
生成AI×DEX――「見える化」から自律的な改善へ
DEXは、生成AIやAIエージェントとの融合によって、さらに次の段階へ進み始めています。
従来は、端末やアプリケーションなどのデータから問題を「見える化」することが中心でした。ここにAIが加わることで、異常の検知だけでなく、原因分析や解決策の提示まで自動化できるようになります。
たとえば、Microsoft Intune 高度分析(Advanced Analytics)では、AIや機械学習を活用した異常検出を支援しています。また、Lakeside Softwareも「SysTrack」を展開し、収集したデータから問題の原因や改善策を導き出す方向へ進んでいます。
今後AIエージェントとの連携が進めば、問題の検知から分析、通知、修復までを自律的に行うことも考えられます。DEXは「体験を測る仕組み」から、「良い体験をつくる仕組み」へと進化していくでしょう。
DEX導入で押さえておきたい課題
DEXは、ツールを導入するだけで成功するものではありません。
まず、「何を改善したいのか」という目的とKPIを明確にすることが重要です。また、端末やアプリケーションの利用データを収集するため、従業員から「監視されている」と受け取られないよう、収集する情報や利用目的を明確にする必要があります。
さらに、前半で述べたとおりIT部門だけの取り組みにせず、人事、経営、事業部門が「従業員がより働きやすくなるためにデータを活用する」という共通目的を持つことも重要です。
DEXのこれからの役割の拡大
今後のDEXは、IT運用の改善だけでなく、企業全体の働き方を最適化する基盤へと広がっていくでしょう。
職種や働き方、利用するアプリケーションなどに応じて、一人ひとりに適したデジタル環境を提供する方向への進化も考えられます。また、エンドユーザー環境にもSRE(Site Reliability Engineering)の考え方を取り入れ、従業員体験を継続的に測定・改善する動きも始まっています。
DEXは「ITが正常に動いているか」を測る仕組みから、「従業員が快適に働けているか」を捉え、IT投資や働き方を考えるための経営指標へと、その役割を広げていく可能性があります。
まとめ
繰り返しになりますが、DEXの本質は、「システムが正常に動いているか」ではなく、「従業員が快適に仕事を進められているか」という視点からデジタル環境を捉えることにあります。
生成AIやAIエージェントとの融合によって、「問題が起きてから直すIT」から、「問題を予測し、起きる前に改善するIT」への転換も進むでしょう。
人材不足や働き方の多様化が進む中、一人ひとりが能力を発揮できるデジタル環境そのものが企業の競争力になります。DEXは「ITを効率化する取り組み」から、「人がよりよく働ける会社をつくる取り組み」へと、その重要性はさらに高まっていくでしょう。















